ワラス線(読み)わらすせん(その他表記)Wallace's line

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ワラス線」の意味・わかりやすい解説

ワラス線
わらすせん
Wallace's line

動物地理学上の境界線の一つ。ウォーレス線ウォレス線ともよばれる。マレー諸島の動物相の研究に基づき、A・R・ウォーレスが1860年に東洋区とオーストラリア区の境界線として提唱した。命名はT・H・ハクスリーによる(1868)。ジャワ島東方のバリ島とロンボク島間のロンボク海峡からボルネオ島スラウェシセレベス)島間のマカッサル海峡を経てミンダナオ島とサンギヘ島の間を通る線で、これより西は東洋区、東はオーストラリア区に属するとした。ワラス線の北部がどの地域を通るかについては諸説があり、アメリカの植物学者メリルE. D. Merrill(1876―1956)はフィリピン群島を(1923)、博物学者で探検家の鹿野忠雄(かのただお)(1906―1945?)はさらに台湾南東の紅頭嶼(こうとうしょ)をオーストラリア区に含めるようにワラス線を修正した(1931)が、これを新ワラス線とよぶ。当初はとくにバリ島とロンボク島間の狭い海峡が二動物地理区の明瞭(めいりょう)な境界となっている点で大いに注目されたが、のちにはワラス線より西にはオーストラリア区の要素は入り込んでいないが、東には淡水魚哺乳(ほにゅう)類をはじめとするさまざまな動物群で東洋区系の要素が侵入していることが明らかにされ、顕著な境界線としての意義は薄れた。ワラス線にかわる境界線としてチモール島東方からモルッカ諸島の西を抜け、モルッカ海峡を経て太平洋に出るウェーバー線があるが、これも顕著な境界とはいいがたい。近年はワラス線を東洋区の東限、チモール島東方からアルー諸島カイ諸島の間を北上しセラム島とミソール島の間を抜けてワイゲオ島西方から太平洋に抜ける線をオーストラリア区の西限とし、この二つの境界線に囲まれたスラウェシ島小スンダ列島、モルッカ諸島などを含むワラセアWallaceaとよばれる地域を両動物地理区の要素の混在する移行的な地域とする見方が一般的である。

[片倉晴雄]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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