アルコール関連疾患

内科学 第10版の解説

アルコール関連疾患(生活・社会・環境要因)

 飲酒は肝障害,膵炎,脳神経障害などの多くの病態に関係し(表16-1-6),2002年のWHOの報告によると,先進国ではすべての疾病の負担(burden of disease)の9.2%が飲酒に起因する.これはタバコの12.2%,血圧の10.9%につぐ3番目の数値である.有害な飲酒は多くの心身の疾患や,交通事故,暴力,自殺,外傷と関連が深く,本人だけでなく他人への身体的・精神的・社会的な害も大きい.他者への有害性も含めた英国の現状評価では,タバコやヘロインを含むすべての薬物の中でアルコールは最大の有害性があるとされている.2010年にWHOは「アルコールの有害使用低減のための世界戦略」の決議を行い,施策の実行を加盟各国に求めている.
(1)国民の飲酒様態
a.習慣飲酒者の割合
 2009年度の国民健康栄養調査では,週3回以上1日に日本酒換算1合以上飲酒する飲酒習慣者の割合は,男性36%,女性7%であり,飲酒習慣の社会的変化,飲酒運転の厳罰化,酒害知識の普及,喫煙率の減少などの影響下に2003年頃から男性では漸減し,女性では横ばいである.
b.重篤問題飲酒者,アルコール依存症者の頻度
 2003年の全国調査では,久里浜式アルコール症スクリーニングテスト(KAST)による重篤問題飲酒者は1984年調査の336万人から440万人に増加し,国際疾病分類(ICD-10)によるアルコール依存症者は80万人と推計された.アルコール依存症として治療を受けている患者は年間4万人と報告されており,多くの患者が診断されずに治療のチャンスを逃している.
c.未成年者の飲酒状況
 未成年者の飲酒行動に関する全国調査では,月に1~2回以上飲酒する者の割合は,1996年には中学3年男子の25%,高校3年男子の52%であり未成年者の飲酒が日常化していたが,2008年にはそれぞれ9%と27%に減少した.女性でも17%と27%から10%と22%と減少したが男性より減少率が低く男女差がなくなってきている.
d.「節度ある適度な飲酒」
 厚生労働省の第3次国民健康づくり運動「健康日本21」では「節度ある適度な飲酒」の飲酒量を,1日平均純アルコールで約20 g程度(女性と少量飲酒で顔が赤くなる人と65歳以上の高齢者ではさらに少ない量)としている.これはビール500 mL,缶酎ハイ350 mL,日本酒180 mL(1合),ワイン200 mL,ウイスキー60 mL(ダブル1杯)に相当する.
(2)アルコール代謝
a.アルコール代謝と薬物代謝
 アルコールは大部分が肝臓で代謝される.アルコール脱水素酵素(ADH)とミクロソームエタノール酸化酵素系(MEOS)によりアセトアルデヒドへと酸化され,次にアルデヒド脱水素酵素(ALDH)により酢酸になる.1時間の体重kgあたりのアルコール分解能力は100 mg前後である.体重60 kgの場合,1時間に6 gのアルコールを分解し,5%ビール500 mLの分解には3時間以上が必要となる.MEOSは薬物代謝酵素チトクロームP-450を含む酵素群である.大酒家ではP-450が強く誘導されアルコール分解能力が亢進する.脳の耐性と並んで,“酒に強くなった”と感じる一因である.この酵素誘導は断酒1週間以内に消失する.P-450を介して代謝される薬剤(ジアゼパム,クロルプロマジン,ワルファリンなど)とアルコールを併用すると,拮抗阻害や薬物代謝の亢進により薬効が増減して危険である.
b.アルコール代謝酵素の遺伝子多型
 ALDH2には東アジア人特有の遺伝子多型がある.国民の約40%は活性が欠損したALDH2を有し,飲酒後に高アセトアルデヒド血症を生じる.そのためごく少量の飲酒で顔面紅潮,動悸,眠気などのフラッシング反応を起こす.またALDH2活性型の人よりも少ない飲酒量で二日酔いを起こしやすい.ALDH2ホモ欠損者(日本人の7%前後)は飲酒できない.ALDH2へテロ欠損者では飲める人も多く,アルコール依存症者の90%弱はALDH2活性型であるが,10%強はヘテロ欠損者である.ALDH2欠損の推定方法には,フラッシングに関する質問法やエタノールパッチテストがある.
 ADH1B(旧名ADH2)にも遺伝子多型があり,白人と黒人の約90%が有するホモ低活性型と異なり,東アジア人の90%以上が超高活性型ADH1Bをもっている.アルコール代謝速度が遅いホモ低活性型ADH1Bは,フラッシング反応を抑制し,多量飲酒した翌朝に酒臭い体質となる.そのため人口の3~4%しかいないホモ低活性型ADH1Bと活性型ALDH2の組み合わせをもつ人が飲酒家になるときわめてアルコール依存症になりやすく,アルコール依存症患者の約30%がこの遺伝子型である.将来,安価な遺伝子解析が事業化されれば,遺伝子型を知って飲酒関連問題を予防する時代となるであろう.
(3)飲酒による健康障害
a.急性アルコール中毒
 個人差はあるが血中アルコール濃度が160~300 mg/dLになると,酩酊状態で悪心を伴い急性アルコール中毒の状態となる.310~400 mg/dLで泥酔状態,410 mg/dL以上では呼吸麻痺による中毒死の危険が大きい.急性アルコール中毒の救急搬送者数は年々増加し20歳代が約半数を占める.この年代はグループでの飲酒が多く,雰囲気に呑まれたり,一気飲みや周囲からの強制があることを反映している.
b.総死亡率へのJ型効果
 総死亡率は,非飲酒者と比べて適度の飲酒者では若干低下し,多量の飲酒者では大幅に上昇する.飲酒量を横軸,死亡リスクを縦軸にとるとJ型のカーブとなる.わが国の男性約2万人の前向きコホート研究(JPHC研究)でも,純アルコールで週1~149 gの飲酒で総死亡リスクが0.64倍に低下し,J型の関係がみられた.喫煙者では飲酒によるリスク低下はみられなかった.リスクが最も低くなるのは,男性で1日20 g前後,女性で10 g以下とするものが多く,「節度ある適度な飲酒」の飲酒量の根拠の1つとなっている.
c.飲酒と循環器疾患
 飲酒は冠動脈疾患のリスクを下げる.飲まない人と比べて20 g程度の飲酒でリスク減少が最大となり,飲酒量の増加に伴ってリスクが漸増しJ型やU型のカーブとなる.適度の飲酒による予防機序は,HDLコレステロールの増加,血小板凝集の抑制,フィブリノゲンの低下など凝固線溶系への影響,抗炎症作用の関与が推測されている.冠動脈疾患の罹患後の患者の再発や死亡に関しても飲酒のJ型効果がみられる.飲酒は高血圧の危険因子であり20 g程度でもリスクとなる.大量飲酒はアルコール性心筋症や心房細動などの不整脈の原因にもなる.
d.飲酒と脳卒中
 飲酒量の増加とともに出血性脳卒中(くも膜下出血と脳出血)のリスクは高まるが,少量の飲酒は脳梗塞の発症率を低下させJカーブ効果がみられる.JPHC研究では週に1~149 g飲酒する人では,月に1~3回飲酒する人と比べ出血性脳卒中を発症リスクが1.73と上昇したが,脳梗塞では0.59と低下した.
e.飲酒と癌
 飲酒が原因で発生する癌は,口腔・咽頭・喉頭・食道の扁平上皮癌,肝細胞癌,直腸・結腸癌,女性の乳癌である.膵臓癌との関連も疑われている.頭頸部(口腔・咽頭・喉頭)と食道の癌はALDH2へテロ欠損型とADH1Bホモ低活性型と飲酒・喫煙習慣の組み合わせで相乗的にリスクが上昇し,わが国では特に多発・重複癌となることが多い.WHOはアルコール飲料自体,飲料中のエタノール,飲酒と関連したアセトアルデヒドの3つをヒトへの発癌性が確実なグループ1の発癌物質に認定している.飲酒関連癌には安全な飲酒量はなく20 g程度でもリスクとなる.
f.機会的な多量飲酒の影響と休肝日
 普段は適度な飲酒をする人でも,月に1回以上60 g以上などの機会的な多量飲酒をする人では冠動脈疾患のリスクが上昇し,適度な飲酒によるリスク減少効果を打ち消してしまうことが明らかとなってきている.またわが国で広く知られている‘休肝日’は,1週間の総飲酒量が同じでも死亡リスクを下げる可能性が指摘されている.JPHC研究では,3日以上の休肝日を設けていない男性は週3日以上休肝日を設けている男性と比べて,週300 g以上の飲酒群の中で総死亡リスクが1.5~1.8倍高いと報告している.
g.女性の飲酒
 妊婦の飲酒の胎児への影響は広範であり,特に中枢神経系への影響が深刻である.胎児アルコール症候群や成長後のさまざまな身体的行動的障害が出現する危険性が高まる.女性は男性より少量で肝障害などの健康障害が出やすい.
h.アルコール依存症 アルコール依存症は,飲酒量の調節ができない,アルコール離脱症状がある,飲酒による身体的,精神的,社会的問題が存在する,の3点で特徴づけられる慢性再発性の疾患である.治療の基本は断酒する努力を生涯続けることであり,長期間断酒に成功しても再飲酒すればもとに戻ってしまう.早期に認知行動療法などの専門治療につなげるべきである.断酒会とAA(alcoholic anonymous)という自助組織の活動もある.
i.大酒家の突然死
 自宅で死後発見されるなどの異状死体の検案では,急病死と診断されたわが国の中年男性の35 %が大酒家やアルコール依存症者と報告されている.心血管疾患に加え,食事をあまりとらない多量飲酒は,脱水,貧血,低カリウム血症,低血糖,アルコール性ケトアシドーシスなどの種々の生命を脅かす状態をきたすが,慢性的な多量飲酒状態では自覚症状が出にくい.このような代謝障害による急死の一群は大酒家突然死症候群とよばれる.[横山 顕]
■文献
アルコール関連障害の現状と対策.日本医師会雑誌,140(9),2011.がん予防・検診研究センター予防研究部:多目的コホート研究 (JPHC Study).http://epi.ncc.go.jp/jphc/ (2011年11月25日アクセス)IARC: Alcohol Consumption and Ethyl Carbamate, IARC Monographs on the Evaluation of Carcinogenic Risks to Humans. Vol 96, IARC, Lyon, 2010.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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