アルタイ系諸族(読み)あるたいけいしょぞく(英語表記)Altaie peoples

日本大百科全書(ニッポニカ) 「アルタイ系諸族」の意味・わかりやすい解説

アルタイ系諸族
あるたいけいしょぞく
Altaie peoples

アルタイ諸言語を話す諸族を便宜上総称する。アルタイ系諸族という概念は、あくまで言語に基づいてつくられたものであって、理論上はそれを話す人種や文化の系統とは区別すべきである。それにもかかわらず、アルタイ諸言語を話す人たちには、彼らの信仰、口頭伝承、物質文化などの面でかなりの共通性が認められるため、この人たちをアルタイ系諸族とよぶと便利なことがある。

 アルタイ系諸族の生活舞台は、サハヤクート)の人々のように、シベリアの原生林や、冬は凍結する大河に拠(よ)って狩猟漁労、トナカイ牧養を営むものと、モンゴルカザフキルギスの諸民族のように、乾燥した草原地帯から半砂漠地帯にかけて、もっぱら遊牧を営むものとがある。前者の場合、十数本の棒の上端を束ねて下端を開き、円錐(えんすい)状に立てかけたものを、獣皮やシラカバ樹皮で覆って住居(ロシア語でチュムという)とする。後者の草原地帯では、伸縮できるように組み合わせた細木でつくった円筒形の壁面の上に円錐形の屋根をのせた形とし、それをフェルトや獣皮などで覆う。後者は前者から発達した形態と考えられ、パオ(包)、ユルトチュルク語)、ゲル(モンゴル語)などの名で広く知られている。フェルトはきわめて早い時期に彼らのもとで発明された畜産品であって、羊毛に獣乳をしみ込ませ、その接着効果を利用して、幾層にも巻き固めてつくる。

 彼らの生活のすべてが猟獣や家畜に依存していて、衣服と住居はその毛と皮に、食料は乳製品と肉による。ウマ、ヒツジヤギ、ウシ、ラクダなどが主要な家畜であるが、とりわけ馬乳は乳糖に富むので、これを発酵させて、クミス(チュルク語)とかアイラク(モンゴル語)とかよばれる乳製アルコール飲料をつくり愛飲する。蒸留すれば透明な酒が得られる。

 今日ではモンゴル諸族はチベット仏教を、トルコ系諸族の多くはイスラム教を受け入れているが、本来の信仰はシャマニズムシャーマニズム)であってその名残(なごり)は至る所に認められる。彼らの信仰を特徴づけるものは、天がいくつもの層からなるという観念、複雑に発達した天上の神々の体系、それと地上の人間とを仲立ちするシャマン(シャーマン)の大きな役割、ほふられた動物の、骨からの再生の観念、霊魂崇拝などである。厳格な族外婚に基礎を置く氏族組織の単位は骨に例えてよばれ、分類される点、わが国の姓(かばね)との類似が指摘されている。

 アルタイ系諸族の主要部分は人種的にモンゴロイドであるが、ヨーロッパと接する周辺部では、青い目、茶色の髪など、ヨーロッパ人種の特徴が見受けられる。

[田中克彦]

『ウノ・ハルヴァ著、田中克彦訳『シャマニズム――アルタイ系諸民族の世界像』(1971・三省堂)』『ロット・ファルク著、田中克彦・糟谷啓介・林正寛訳『シベリアの狩猟儀礼』(『人類学ゼミナール14』1980・弘文堂)』

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