日本大百科全書(ニッポニカ) 「アルタイ諸言語」の意味・わかりやすい解説
アルタイ諸言語
あるたいしょげんご
トルコ(チュルク)系、モンゴル系、満州・ツングース系の言語の総称。言語学者のポリワーノフ(『朝鮮語とアルタイ諸語との親縁関係について』1927)、ラムステット(『朝鮮語に関する覚書』1928)以来、朝鮮語をそれに加える学者もあり、R・A・ミラーRoy Andrew Miller(1924―2014。『日本語とその他のアルタイ諸語』1971)のように、日本語を第五のアルタイ語として取り扱う学者もある。アルタイという名称はモンゴルのアルタイ山脈からとったもので、モンゴル語アルタン「金」、トルコ語アルトゥン「金」に由来する。
アルタイ諸言語はフィンランドのカストレンの場合、前記の諸語のほか、現在ウラル諸語とよばれるものをも含むとしていたが、同国人ラムステットはトルコ語、モンゴル語、ツングース語、朝鮮語を比較研究して、それらが共通祖語から分かれたと結論し、 のような音対応をみいだした。
ラムステットの説はソ連のウラジーミルツォフ、ポッペNicholas Poppe(1897―1991。のちアメリカに移住)、バスカーコフ、スーニク、フィンランドのアールト(ラムステットの遺著の刊行者)、アメリカのメンゲス(のちオーストリアに移住)、ミラーその他に受け継がれ、音韻論、形態論で優れた成果があげられている。ポッペはアルタイ諸言語の系統関係を のように図解する。
ポッペはアルタイ諸言語間の系統関係は、インド・ヨーロッパ語族諸言語間のそれに比べて、疎遠であるとみる。
ソ連のサンジェーフ(モンゴル学者)、シチェルバク(トルコ学者)、セレブレンニコフ(ウラル・アルタイ学者)、イギリスのクローゾン、ドイツのドェルファー(トルコ・モンゴル学者)はアルタイ祖語説に反対し、アルタイ諸言語の構造、形態論上の類似点や共通単語は長期間にわたる接触の産物とみ、その際トルコ語がモンゴル語に、モンゴル語が満州・ツングース語に与えた影響が大きいとする。アルタイ祖語説反対の論拠はインド・ヨーロッパ語族、セム語族、南洋語族、フィン・ウゴル語族、ドラビダ語族などの場合、数詞の一致の程度が高いのに対し、アルタイ諸言語には数詞の一致がみられないこと、中核的基礎語彙(ごい)である頭、目、耳、鼻、口、舌、歯、毛、心臓、手、足のような語彙に一致がみられないことなどである。
なお、アルタイ諸言語のうち、満州・ツングース語と日本語との系統関係の証明には確かなところがある。
[村山七郎 2018年8月21日]
『ミラー著、村山七郎・山本啓二・下内充訳『日本語の起源』(1982・筑摩書房)』