日本大百科全書(ニッポニカ) 「アレクサンドリア四重奏」の意味・わかりやすい解説
アレクサンドリア四重奏
あれくさんどりあしじゅうそう
The Alexandria Quartet
イギリスの作家ダレルの連作小説(1957~1960)の総称。『ジュスティーヌ』『バルタザール』『マウントオリーブ』『クレア』の4部からなる。1930年代のエジプトの海港都市アレクサンドリアでは、多様な人種が入り混じって退廃と倦怠(けんたい)の生活を営んでいた。作家志望の学校教師ダーリーは、実業家ネシムの妻ジュスティーヌの偏執的な愛情にとらわれて苦しむが、エーゲ海の小島に逃れて過去の葛藤(かっとう)をたどり直すうちに、実はエジプト土着民族の独立運動に利用されていたのが明らかになる。第1部、第2部では語り手ダーリーの回想に他の人物たちの手記や書簡が挿入され、時間の経過はしばしば無視される。第3部では三人称小説に転じるが、第4部でふたたびダーリーの手記に戻り第二次世界大戦直後の新しい展開を示すなど、作者はさまざまな視点から事件の諸相を描き分けている。複雑な構成法、豊かな物語性、華麗な文体、古い歴史をもつ都会の地勢や風俗の細密な描写などが、この連作の特徴をなしている。
[高松雄一]
『ロレンス・ダレル著、高松雄一訳『ジュスティーヌ』『バルタザール』『マウントオリーヴ』『クレア』(2007・河出書房新社)』