日本大百科全書(ニッポニカ) 「ウェザー・リポート」の意味・わかりやすい解説
ウェザー・リポート
うぇざーりぽーと
Weather Report
ジョー・ザビヌル(ピアノ、キーボード)、ウェイン・ショーター(サックス)、チェコ、プラハ出身のベース奏者ミロスラフ・ビトスMiroslav Vitous(1947― )らによって、1970年12月に結成されたアメリカのジャズ・グループ。ただしビトスは73年末に退団したので、実質的にはザビヌルとショーターの双頭バンド。3人はマイルス・デービス・グループのサイドマンを経験しており、マイルスが60年代後半に切り拓いた「エレクトリック・ジャズ」の動きと連動して生まれたグループである。
71年に発表された彼らの初リーダー作『ウェザー・リポート』は、従来のジャズ演奏にはない斬新なザビヌルのエレクトリック・ピアノ使用法によって、70年代のジャズに大きな影響を及ぼした。特に76年、ベース奏者のジャコ・パストリアスが参加すると、彼の超絶的テクニックに対する人気もあいまって、「エレクトリック・ジャズ」を代表する花形グループとなる。
彼らは一度即興的に演奏したものをテープに記録し、そのなかの優れた部分を記譜する「即興作曲法」という手法をジャズにもち込んだ。そうして一度構成されたものをもとに、実際の演奏の場面では、そのモチーフがさらに自由に変更され発展するという方法をとった。その結果、ジャズ特有の即興性と、緻密に構成された音楽という相反する要素が巧みに結合された。この効果は、ほぼ同時期に活動したマイルスのグループと比較すると明らかで、マイルスの音楽がライブの場面ではあえて混沌も恐れず貪欲に即興性を追求したのに対し、彼らの演奏はより整理された印象を聴き手に与える。その結果、75年にマイルスが身体の不調で演奏活動を中断すると、ウェザー・リポートは名実ともにジャズ界のトップ・グループとなる。72年(昭和47)の初来日以来、たびたび日本公演を行っており、ファンの人気も絶大であったが86年3月にグループを解散する。
代表作にはベース奏者がビトスの時代は73年の『スウィートナイター』、パストリアスが参加してからは76年の『ヘヴィー・ウェザー』がある。彼らは、一般的にはエレクトリック楽器を使用しているところからフュージョン・グループの代表と見なされているが、即興の質、音楽的密度の高さなど、ジャズ的要素を完全に備えた優れた演奏集団である。ちなみに、フュージョン・ミュージックはジャズと隣接関係にあるが、より技巧性が強く、即興的創造性より聴衆の欲求に沿った定型的表現への傾斜が強い音楽ジャンルである。彼らの音楽を別の側面から眺めてみると、グループの音楽的リーダーであるザビヌルの西欧音楽の教養に裏づけられた「理念性」と、ショーターの演奏するサックスがもつ「身体性」が巧みに融合された結果、ジャズ的表現の幅が拡大されたと見ることができる。
[後藤雅洋]