フランス語ではpièce bien faiteといい,文字どおりには〈よく作られた戯曲〉を意味するが,普通は,緊密な構成をもち,人物の個性よりも巧みに組み立てられた状況によってプロットが進行する戯曲を指す。19世紀のフランスで確立し,スクリーブEugène Scribe,V.サルドゥー,A.デュマ(子),オージエÉmile Augierなどをおもな書き手とする。おおむね,過去の秘密がしだいに明らかになって中心人物の現在の生活に決定的な影響を及ぼすという物語を,観客を不安がらせたり驚かせたりしながら進行させ,また,結末は既成の道徳観に合致するのが普通である。近代市民階級をおもな観客とする保守的な劇形式で,観客自身になじみがある日常生活を描くのに特に適する。戯曲の密度を重視するため,登場人物の数,場面,劇の事件の所要時間は限られることが多く,三統一の法則を守ることもまれではない。過度の秩序性のゆえに,イプセン,バーナード・ショーなど近代リアリズムの劇作家には人工的で不自然だとして非難された。現在でもこの言葉は必ずしもよい意味に用いられないが,現代の商業演劇の多くは,メロドラマ,客間喜劇,笑劇,スリラー劇など,内容は異なってもいずれもウェルメード・プレーの作劇術によっている。それは本質においては,17世紀のフランス古典悲劇に発する,西洋近代劇の最も基本的な作劇術であり,リアリズム作家の作品にも実はひじょうにしばしば認められる。
執筆者:喜志 哲雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
(扇田昭彦 演劇評論家 / 2007年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
…それはまた,パリ周縁の劇場の成立を促し,小劇場運動とともに,パリの劇場地図を60年代に大きく変えた。モンテルランらの新作上演やシャロン,イルシュらによる活力ある喜劇の職人芸によってなお主流を誇ってきたコメディ・フランセーズをかっこ付きの〈伝統の牙城〉として孤立させ,ベルスタイン,パニョルからアシャール,ルッサン,アヌイを経て,カモレッティ,ポアレに至るウェルメード・プレー(50年代までは,多くは三角関係を主題とした風俗喜劇)によりロングランを続けていた町中の商業劇場を,〈ブールバール劇〉として否定する視座を普及させることになる。
[〈68年型演劇〉とその後]
アルトーが30年代に主張した〈残酷演劇〉の徴の下に,ポーランドのJ.グロトフスキとオフ・オフ・ブロードウェーからきたリビング・シアターの刺激によって出現する〈68年型演劇〉は,〈肉体の演劇〉による〈言葉の演劇〉の廃絶をはじめ,ラディカルな〈異議申立て〉であろうとした。…
※「ウエルメードプレー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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