三統一(読み)さんとういつ(英語表記)trois unités

改訂新版 世界大百科事典 「三統一」の意味・わかりやすい解説

三統一 (さんとういつ)
trois unités

フランス古典劇の作劇法眼目となる規則。〈三一致〉あるいは〈三単一〉とも訳される。16世紀の人文学者がアリストテレスの《詩学》に基づいて編んだ演劇理論に,舞台展開する劇の筋の時間的制約である時の統一unité de temps,その空間的制約である場所の統一unité de lieu,さらに筋そのものが一本化されることを要求する筋の統一unité d'actionが,すでにうたわれている。17世紀に入って,コルネイユの《ル・シッド》をめぐる論争のすえ,三統一は演劇の規則として確立された。その詳細な内容はドービニャックの《演劇作法》(1657)で規定され,ボアローは《詩法》(1674)で,〈ただ一つの場所で,ただ一日のうちに,ただ一つの行為が完結する〉と要約した。三統一を作劇の骨子とする根拠は,フランス古典劇の理想である真実らしさの追求にある。ル・シッド論争を裁定したシャプランは,〈すべての詩における模倣とは,模倣されたものと模倣するものとの間に,なんらの差異のないほど完全でなければならぬということを基本としたい。なぜなら,詩の本来目的は,精神をまことに現前するものとして提示し,その無軌道な情熱から浄化することであるから〉と,理性尊重の文学観に立脚している。したがって合理主義的な作劇法が,舞台を現実に近づけようとして,筋の展開に三統一の規制を課したのである。ただしボアローの影響によって,擬古典主義に継承された18世紀以後は,形骸化した。
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百科事典マイペディア 「三統一」の意味・わかりやすい解説

三統一【さんとういつ】

フランス古典劇の基本的劇作法。〈三単一〉〈三一致〉とも。時・場所・筋の三つの一致を意味し,さらに演劇における事件は一日以内,同一の場所で行われ,発端から結末まで一貫したものでなければならないという理論。アリストテレスの《詩学》に始まるとされ,17世紀フランスのボアローが絶対不変の法則として主張。ラシーヌコルネイユモリエールらがこの法則のもとに傑作を残した。
→関連項目ゲッツ・フォン・ベルリヒンゲン古典主義ベガモラティン

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世界大百科事典(旧版)内の三統一の言及

【ゴットシェート】より

…したがって想像力,感情,超現実的なものによる文学世界の可能性を主張したスイス派のJ.J.ボードマーブライティンガーとの論争にまでいたった。演劇においてもノイバー劇団の協力を得ながら,コルネイユ,ラシーヌを範として厳格な三統一の法則の固持と忠実な脚本の再現化に努め,即興的空想的要素の多い道化劇を退けることによって,演劇と文学の一体化を目指した。〈理性〉を至上とする性急な形式主義のあまり,彼は時代から取り残され,シュトゥルム・ウント・ドラングの若い世代から痛烈な非難さえ浴びるにいたったものの,理性による人間精神の独立と発展を促そうとする努力は,その後の文学思潮と市民意識の形成に新しい地平を切り開いたと言えよう。…

【古典主義】より

…もっとも絶対王政成立にとって最も大きな試練であったフロンドの乱の前後には,リシュリューの後を継いだイタリア人の宰相・枢機卿J.マザランによるイタリア・オペラの導入をはじめ,バロック的なものが隆盛を誇る。1657年刊のドービニャック師François Hédelin,Abbé d’Aubignac(1604‐76)の《演劇作法Pratique du théâtre》は古典主義の規範文書となるが,それに対する反論としてコルネイユは3編の論考を書き(《劇詩論》《悲劇論》《三統一論》),実作者の立場から規則議論を活かそうとした。喜劇はアリストテレスの《詩学》に欠損していることもあって,悲劇よりは自由であったが,規則議論が劇文学の質を急激に高めていく動きの中で,とくにモリエールによって悲劇に拮抗し得る優れた文学ジャンルとなる。…

※「三統一」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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