エネルギー代謝阻害剤(読み)えねるぎーたいしゃそがいざい

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

殺菌剤を病原菌の標的との相互作用で分けたときの分類の一つ。生物が生長・成長するために必須(ひっす)の生体反応であるエネルギー獲得反応、なかでも解糖系、ペントースリン酸回路やTCA回路(トリカルボン酸回路・クエン酸回路)で、アミノ酸のシステインのSH基(スルフヒドリル基、メルカプト基、チオール基ともいう)を触媒活性の中心とする酵素反応、アセチル補酵素A(CoA)やリポ酸のSH基が関与する酵素反応、さらに、重金属を因子とする酵素反応を阻害し、防除効果を発揮する殺菌剤の総称。SH酵素阻害殺菌剤ともよばれる。
 エネルギー代謝阻害剤は、解糖系ではヘキソキナーゼ、アルドラーゼやグリセルアルデヒド-3-リン酸脱水素酵素、ペントースリン酸回路ではグルコース-6-リン酸脱水素酵素や6-ホスホグルコン酸脱水素酵素、そしてTCA回路ではアコニターゼ、α(アルファ)-ケトグルタル酸脱水素酵素とコハク酸脱水素酵素を阻害するとされている。浸透移行性が乏しいが、阻害部位が多様であるため耐性菌が発現しがたいとされており、広範囲の病害防除に汎用(はんよう)されている。
 エネルギー代謝阻害剤には、銅剤、ジチオカーバメート剤(ジラム、チウラム、ジネブ、マンネブ、アンバム、マンゼブなど)および有機塩素剤(トリホスホピリジンヌクレオチド=triphosphopyridine nucleotide:TPN、キャプタン、ホルペット、ユーパレンなど)がある。銅剤として、ボルドー液のような無機銅剤やキノリンのような有機化合物を配位子とした銅キレート剤がある。ジチオカーバメート剤は、1930年代から合成研究が開始されたもっとも古い有機合成殺菌剤の一つであり、日本では、1950年(昭和25)にジラムが登録されている。有機塩素剤のキャプタンやホルペットは、化学構造の特徴によりジカルボキシイミド剤ともよばれる。有機水銀剤(フェニル酢酸水銀)や有機ヒ素剤(メタンアルソン酸誘導体)もエネルギー代謝阻害剤であるが、日本では使用されていない。[田村廣人]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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