日本大百科全書(ニッポニカ) 「ペントースリン酸回路」の意味・わかりやすい解説
ペントースリン酸回路
ぺんとーすりんさんかいろ
解糖のエムデン‐マイヤーホーフEmbden-Meyerhof経路と並ぶグルコースの主要な分解経路で、ヘキソースモノリン酸側路、ワールブルク‐ディケンズWarburg-Dikens回路ともいう。解糖過程とは異なり、好気的過程である。この回路は、グルコース-6-リン酸で解糖と分岐している。グルコース-6-リン酸がデヒドロゲナーゼ(脱水素酵素)の作用を受けて6-ホスホグルコノ-δ(デルタ)-ラクトンに変わるが、このときNADP(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸)が必要である。ラクトンは加水分解を受けて6-ホスホグルコン酸となり、さらにデヒドロゲナーゼの作用を受けてリブロース-5-リン酸となるが、このとき脱炭酸される。さらに、リボースリン酸イソメラーゼの反応によりD-リボース-5-リン酸が生成する。続いて転移反応により、ヘプトース、テトロース、トリオースのリン酸エステルを経てグルコース-6-リン酸を再生する。転移反応に関与するトランスケトラーゼ、トランスアルドラーゼは糖のC-C結合を開裂して、これらの糖相互の変換を触媒する重要な酵素である。この回路全体の反応は
グルコース-6-リン酸+12NADP++7H2O
―→6CO2+12NADPH+12H++リン酸
となり、1回路につき12分子のNADPH(還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸)を生ずる。NADPHは還元的生合成反応に供給される。たとえば長鎖脂肪酸の合成、ジヒドロ葉酸からテトラヒドロ葉酸への還元、フェニルアラニンからチロシンへの反応、ステロイド形成での水酸化反応などに関与している。また、ヘキソース、ヘプトース、テトロース、ペントースの相互変換により糖の代謝を関連づけたり、核酸合成に必要なペントースや芳香環合成の前駆物質であるエリトロースリン酸を供給している。以上のようにこの回路の重要な点は、ヘキソースから核酸の生合成に必要なD-リボース-5-リン酸が生成されること、およびNADPHの形で還元力が産生されることである。
[飯島康輝]
『ロスコスキー著、田島陽太郎監訳『生化学』(1999・西村書店)』▽『栃倉辰六郎ほか監修、バイオインダストリー協会発酵と代謝研究会編『発酵ハンドブック』(2001・共立出版)』▽『C・K・マシューズほか著、清水孝雄ほか監訳『カラー 生化学』(2003・西村書店)』