カタール(国)(読み)かたーる(英語表記)State of Qatar 英語

日本大百科全書(ニッポニカ) 「カタール(国)」の意味・わかりやすい解説

カタール(国)
かたーる
State of Qatar 英語
Doula al-Qatāra アラビア語

アラビア半島からペルシア湾アラビア湾)の中央に突出したカタール半島のほぼ全域を占める国。正式名称はカタール国Doula al-Qatāra。面積は1万1586平方キロメートル、人口93万6000(2006推計)、165万(2009カタール統計庁)。首都ドーハに38万4000(2007推計)が集中する。公用語はアラビア語。

 地形は大部分が平坦(へいたん)で不毛な砂漠地帯である。地下水は少なく、また飲料水や農業水に適さないため海水淡水化装置で水を得ている。気候は夏期には砂漠地特有の乾燥酷暑が続く。また三方を海で囲まれ、高い湿度を伴うことがある。住民はアラブ人のスンニー派イスラム教徒である。オイル・ブームによって近隣アラブ諸国やイラン、インドなどから外国人労働者が大量に流入し、現在では4分の3近くが非カタール人である。経済開発が一段落した最近では外国人単純労働者の流入を規制する方向にある。18世紀にアル・ハリーファ人がアラビア半島より移住し、19世紀前半に現首長サーニー家が支配権を確立した。1916年イギリスと保護協定を結び、1971年に独立するまで実質的にイギリスの支配下にあった。政体は世襲君主制の首長国で、建国以来サーニー家が首長を継いでいる。2003年に三権分立を定めた憲法を18歳以上の男女による国民信任投票で採択し、2005年に発効した。議会として首長が指命する35名の議員からなる諮問評議会があるが、立法権はない。現首長はハマド・ビン・ハリファ・アル・サーニーである。

 経済構造は圧倒的に石油、天然ガスに依存し、国民総生産(GNP)の約80%、輸出額や政府歳入の90%以上を占める。石油生産は1939年カタール半島西部にドゥハーン油田が発見されたことに始まった。1960年代にはペルシア湾沖合いにイド・エル・シャルギ、マイダム・アザム、ブル・ハニネの3油田が相次いで発見され、生産が本格化し、真珠採取業、漁業、遊牧に頼った伝統社会は急変した。石油は陸上が1976年、海上が1977年に完全に国有化された。また、世界最大級のノース・フィールド天然ガス田の開発が、国家的最優先事業と位置づけられ、推進されている。

 2007年の石油確認埋蔵量は約274億バレル(世界の総埋蔵量の2.2%)で、生産量は日産約120万バレルである。天然ガスの確認埋蔵量は約25.6兆立方メートル(世界の総埋蔵量の14.4%)で、年間生産量は59億8000万立方メートルとなっている。2008年には、ロシア、イラン、カタールなど天然ガス輸出国11か国によりガス輸出国機構が発足し、カタールに事務局が置かれた。

 2007年の国内総生産(GDP)は約733億ドル、国民1人当りでは7万8754ドルで、経済成長率は15.9%に達している。政府は石油偏重政策を是正し、産業構造の多様化を試みている。ドーハの南にあるウム・サイドには製鉄化学肥料、天然ガス処理、石油化学などの大規模工場が建設された。漁業は、冷凍・缶詰処理設備をもつ国営カタール漁業会社がエビ漁を中心に操業している。農業も近年急成長し、トマト、キュウリなど野菜類は自給化に成功し、余剰湾岸諸国に輸出するまでになった。2007年の輸出額は414億9000万ドル、輸入額は220億500万ドルとなっている。おもな輸出品目は石油、天然ガス、石油化学製品など、おもな輸入品目は機械類、鉄鋼、自動車などの輸送機器である。おもな輸出相手国は日本、韓国、シンガポールなど、おもな輸入相手国はアメリカ、イタリア、日本などである。

 日本への輸出額は169億4200万ドル、輸入額は18億4200万ドルで、日本の大幅な輸入超過が続いており、1999年の額に比べて輸出額は約5倍、輸入額は約8倍に増加している。おもな輸出品目は石油、液化天然ガスで、輸入品目は自動車などの車両、鉄鋼、機械などである。

 カタールの教育制度は小学校6年、中学校3年、高等学校3年、大学4年の6・3・3・4制で、義務教育は高等学校までである。

[原 隆一・吉田雄介]


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百科事典マイペディア 「カタール(国)」の意味・わかりやすい解説

カタール(国)【カタール】

◎正式名称−カタール国Dawla al-Qatar/State of Qatar。◎面積−1万1571km2。◎人口−170万人(2010)。◎首都−ドーハDoha(52万人,2010)。◎住民−アラブが大部分,ほかにイラン人,インド人など。◎宗教−イスラムが国教(ワッハーブ派が大部分,ほかにシーア派)。◎言語−アラビア語(公用語)。◎通貨−カタール・リヤールQatar Riyal。◎元首−首長,タミーム(2013年6月即位)。◎首相−シェイク・アブドゥラ・ビン・ナーセル・ビン・ハリーファ・アール・サーニ。◎憲法−1970年7月暫定憲法発効,2003年4月国民投票で新憲法承認。◎国会−なし。諮問会議(定員45。うち15名は首長が任命,30名は直接選挙制)がある。政党なし。◎GDP−425億ドル(2007)。◎1人当りGDP−4万6362ドル(2006)。◎農林・漁業就業者比率−2%(1997)。◎平均寿命−男77.8歳,女79.5歳(2013)。◎乳児死亡率−7‰(2010)。◎識字率−94.7%(2009)。    *    *アラビア半島東部,ペルシア湾に突出する半島を占める首長国。土地は乾燥し,砂漠が広く分布しており,石油が国家の主要財源となっている。 当時の首長サーニー家は18世紀前半にアラビア半島中央部から移ってきたといわれる。1871年からオスマン帝国に支配されたが,1916年英国と協定を結んでその保護下に入った。1968年英国軍のスエズ以東撤退が発表されたのを契機に,1971年独立した。1972年アフマド首長が国政に熱心ではないとして,いとこのハリーファ副首長が無血クーデタで政権を奪った。1995年ハマド皇太子が,外交政策をめぐって対立がうわさされていた父のハリーファ首長を追放し,実権を握った。ハマド首長は穏健な民主化・自由化を進め,2003年には三権分立を定めた恒久基本法(憲法)を国民の信託投票で採択した。議会は首長の指名する諮問評議会だが,将来的には一定の立法権を有する評議会とすることが目指されている。衛星テレビ局アルジャジーラ(1996年開局)がドーハにある。2006年12月,中近東で初めてのアジア競技大会(第15回)を首都ドーハで開催した(2022年にはFIFAワールドカップ開催予定)。ハマド首長の主導する民主化・自由化と,地域・国際間の仲介努力と紛争の平和的解決のための協調外交,豊富な資源収入などによって政治は安定している。2014年の対IS空爆に参加していないものの,ISはモロッコとクウェート,オマーンとともにカタールを名指しし,燃料の補給や基地の提供などで空爆を支援していると批判,今後ISがテロ対象とする可能性がある。外国人労働者に大きく依存している雇用体制が課題で,政府はホワイトカラーの自国民育成を掲げている。

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