工場で工作機械を相手に生産活動に従事している工員,作業員などと呼ばれてきた人たちの,油にまみれたつなぎの作業服姿のイメージから,彼らをブルーカラーと呼ぶ。これと対応させて,オフィスで机に向かって仕事をしている職員,事務員などと呼ばれてきた人たちの白いワイシャツ姿のイメージから,彼らをホワイトカラーと呼ぶ。国勢調査の職業分類に従うと,専門的職業,技術的職業,管理的職業,事務的職業,販売的職業などに分類されている職種の仕事に従事している雇用従業者がホワイトカラーである。アメリカ合衆国では公用の職業分類用語となっており,労働条件ばかりでなく,社会的背景,生活様式,生活意識などいずれの面でも,ホワイトカラーはブルーカラーと明確な一線を画する社会層として,中間階層を構成するものとして扱われている。日本でも,程度の違いはあるが同じような意味をおびた社会階層として位置づけて,そのような点を強調するときに,サラリーマンとはいわずにホワイトカラーという傾向がある。
ホワイトカラーの特色はなによりもその労働の性格にある。彼らの従事する仕事は原則として〈もの〉を作る仕事ではない。仕事の対象になるのは人間であり,シンボルである。組織の管理者の仕事の対象は部下となって働いている人間である。営業担当者の相手は買い手としての,また売り手としての人間である。事務担当者の仕事の対象は文字としての,数字としてのシンボルである。技術担当者の仕事は習得した体系的知識である科学技術としてのシンボルを駆使することである。人間どうしの交渉もことばを介して行われる以上,それはシンボルの操作でもある。そのため,ホワイトカラーの労働はいずれの場合も一定水準の体系的知識を前提とし,それに基づいて遂行される。彼らの労働が非肉体的労働,頭脳労働と呼ばれる理由はそこにある。高度工業化社会は,科学技術の成果に基づいて〈もの〉を作る労働を機械におきかえただけでなく,シンボルを操作する仕事を大幅に増加させてきた。その結果としてホワイトカラーは質的にも多様化してきたばかりか,量的に増加の一途をたどっている。ホワイトカラーの特色はまた,その社会的地位の特異性にもみられる。彼らが労働力を労働市場に提供して生活を維持しているという意味では,ブルーカラーと同じである。両者はともに雇用労働力として同じ立場に立っているといえる。
しかし,ホワイトカラーはその職業活動の性質上,ブルーカラーに比べて高い学歴水準にある。工業化の過程ではブルーカラーは初等学歴者であり,ホワイトカラーは中等学歴者,高等学歴者で占められていた。この学歴水準の差は学校教育を享受しうる社会的背景と結びつき,そのまま客観的な社会的地位の差を示す指標となり,ホワイトカラーはブルーカラーより高い社会的地位を占めることを自他ともに認めてきた。生活様式のうえにも,生活観のうえにも,この社会的地位の差は明瞭に示されていた。しかし高度工業化の進行とともに,日本の社会ではブルーカラーの高学歴化が進み,中等学歴者がブルーカラーの職場に進出し,学歴水準によるホワイトカラーとブルーカラーの格差はあいまいになり,ホワイトカラーの社会的地位の特異性もうすれつつある。高度工業化とともに現れたブルーカラーの高学歴化は,ブルーカラーとホワイトカラーの境界をあいまいにしただけでなく,両者のそれぞれの職業分野における分極化現象を生み出し,両者の重なり合う部分が増大してきた。この種の職業分野に従事する人たちをグレーカラーと呼ぶ。装置産業の生産現場で計器盤の計器類をにらんでいる人たちの姿からはかつてのブルーカラーのイメージは浮かんでこないし,穿孔(せんこう)機のキーをたたいているキーパンチャーの姿からはかつてのホワイトカラーのイメージは浮かんでこない。そこには高度工業化社会を象徴する労働とそれに従事している人々の姿がある。
ホワイトカラーがとくに社会的に問題になるのは,彼らが新しい社会的勢力としてのまとまりをもち,社会的な影響力を行使するかどうか,という点である。ホワイトカラーが社会全体のなかで中間部分を占める中間階層として位置づけられていることについては異論がないとして,彼らが支配階級の側に立つのか,それとも被支配階級の側に立つのかについては見解が分かれている。また,被支配階級の側に立つとしても,はたしてその前衛部分を構成するのか,それとも後衛の立場に立つのかについてもいろいろな見解がある。さらに,ホワイトカラーは,習得した科学技術をてこにして独自の立場を追求する可能性をもっているかどうかについても見解が分かれている。これらの点をめぐる論議が新中間階級論(新中間層)である。それは新しい階級の問題,知識人,テクノクラートの問題など,さまざまに論じられている。
執筆者:本間 康平
アメリカの社会学者ミルズC.W.Millsの出世作で1951年刊。20世紀になって注目されはじめた新中間層を,その服装上の特徴からホワイトカラーととらえ,その実態をアメリカの中間層に対する具体的な調査にもとづいて鋭く分析した。彼によれば,ホワイトカラーは物品を生産しないので,労働者層(ブルーカラー)ではない,企業のために労働者を管理する官僚主義的機構を形成していることが多い,比較的高賃金で身なりはいいが,自己疎外の進行が著しく,たとえば政治には無関心である,などの特性をもつ。マックス・ウェーバーの研究と翻訳で社会学者の道を歩きはじめたミルズが,マルクス主義にしだいに接近した時期の著作である。
執筆者:稲葉 三千男
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[新中間層問題]
マルクスとエンゲルスの階級両極分解説は,20世紀初頭にいたって,彼らが想定していなかった新しい事態としての新中間層問題によって挑戦を受けることになった。新中間層というのは,ブルジョアジーとちがって所有者・経営者でなく,プロレタリアートとちがって肉体(マニュアル)労働者でなく,農民・小工業者・小商人(これらの人びとは〈新〉中間層と区別するために〈旧〉中間層と呼ばれるようになった)とちがって自営業者でもない,中等以上の学歴をもってノンマニュアル業務に従事するホワイトカラー職員である。レーデラーE.LedererとマルシャックJ.Marschakは《新中間層》(1926)と題する論文の中で初めてこの階級が急速に増加しつつあることに注目し,その後C.W.ミルズの《ホワイトカラー》(1951),クローナーF.Cronerの《ホワイト・カラーの社会学Soziologie des Angestellten》(1962)などの諸文献がこれに続いた。…
…産業社会の学歴社会化は,このように,学歴が特定の職業的地位を獲得するための手段となったときに始まったとみることができる。 その学歴社会化を急速に推し進める役割を果たしたのは,一つには学歴を賦与する学校制度自体の発展であり,もう一つは,企業組織の官僚制化がもたらした職員層,いわゆるホワイト・カラー層の成長である。学校教育についていえば,それは量的な拡大を遂げるとともに,上級学校への進学者について一定の学歴を要求する傾向を強め,同時にますます多くの人々に学歴を賦与するようになった。…
…このような実態は,基本的には第2次大戦後の1950年代の技術革新期まで維持された。
【ホワイトカラー管理職の実態】
ホワイトカラー,広い意味での管理職・管理補助職の技能養成は,ブルーカラーの場合以上に個人的・経験主義的要素が支配的であった。第2次大戦前には大企業でも大卒・高専卒は絶対少数であり,彼らは経営幹部候補生としてブルーカラーの養成工以上に終身雇用の対象となった。…
…すなわち,機能資本家たる経営者の登場をもたらした所有と経営の分離が,経営組織の大規模化と相まって,他方にこの経営者を補助する大量の,そしてまた多様な管理的・非肉体的職業者を生み落とすことになったことである。いわゆる〈ホワイトカラー〉と呼ばれる一群の社会層,つまりは,大企業の中・下級管理者,専門職従事者,事務員,販売員等を主とする新しい職業集団がこれであり,新中間層の中核をなすのはこの人たちである。 彼らは,資本家と〈ブルーカラー〉と呼ばれる賃金労働者との中間にあって,俸給(サラリー)を得る雇用従業員(サラリーマン)としての地位を占める。…
…しかし,その後,20世紀に入って資本主義が高度に発達した諸国ではこれら比喩的中産階級(中間階級)に変質が生じた。K.マルクスが解明した資本主義の基本法則によって,ブルジョア化とプロレタリア化という基本的な二大階級にみずからを分解させる傾向を一方にみせつつも,全体としては必ずしも縮小から衰滅の道を示していないこと,他方,これとは異なる主として管理,事務,販売業務などに携わるサラリーマン層を中心とした,俗に〈ホワイトカラー〉と呼ばれる新しい様態の中間層が登場してき,しかもそれが増大化の一途をたどり,社会的人口の圧倒的多数化を予測させるにいたったことである。そこで前者を〈旧中間層〉,後者を〈新中間層〉と呼んで区別するようになった。…
…これら商工自営業主層および自営農民は今日旧中産階級と呼ばれる。被雇用者であるホワイトカラー労働者を指して新中産(中間)階級と呼ぶ用語法が生まれたためである。この新中産階級(正確には新中間身分neue Mittelstand)という呼称は,1926年にE.レーデラーとJ.マルシャクが用いて以来,一般化した。…
…blue‐collarはアメリカでは形容詞であり,日本でいうブルーカラーはblue‐collar workerという。その作業服の点から,管理,事務,営業,金融などの部門で働くワイシャツに背広姿のホワイトカラーと対比して,俗にこのように呼ばれる。ブルーカラーの労働は,自然に働きかけて生産物を物質の形態で受け取る,肉体的エネルギーの支出を中心とする活動である。…
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[新中間層問題]
マルクスとエンゲルスの階級両極分解説は,20世紀初頭にいたって,彼らが想定していなかった新しい事態としての新中間層問題によって挑戦を受けることになった。新中間層というのは,ブルジョアジーとちがって所有者・経営者でなく,プロレタリアートとちがって肉体(マニュアル)労働者でなく,農民・小工業者・小商人(これらの人びとは〈新〉中間層と区別するために〈旧〉中間層と呼ばれるようになった)とちがって自営業者でもない,中等以上の学歴をもってノンマニュアル業務に従事するホワイトカラー職員である。レーデラーE.LedererとマルシャックJ.Marschakは《新中間層》(1926)と題する論文の中で初めてこの階級が急速に増加しつつあることに注目し,その後C.W.ミルズの《ホワイトカラー》(1951),クローナーF.Cronerの《ホワイト・カラーの社会学Soziologie des Angestellten》(1962)などの諸文献がこれに続いた。…
※「ホワイトカラー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
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