日本大百科全書(ニッポニカ) 「ギルガメシュ物語」の意味・わかりやすい解説
ギルガメシュ物語
ぎるがめしゅものがたり
Gilgamesh Epos
バビロニアの叙事詩。世界最古の文学作品といわれ、ギリシアの『オデュッセイア』に比せられる。主人公ギルガメシュは、シュメール、バビロニアなどの古代オリエント諸民族のもとで知られていた伝説的英雄で、シュメールの資料によれば、ウル第1王朝第5代の王であったが、のちには伝説的な人物となり、浮彫りや円筒印章のような美術作品にもしばしば表されている。『ギルガメシュ物語』は紀元前2000年ごろの成立といわれるが、時代を隔てた別々の物語を1人の人物ギルガメシュに統一したものである。今日では主として前7世紀のニネベのアッシュール・バニパル王宮書庫から出土した全12章の粘土書板が典拠で、1872年にイギリスのジョージ・スミスがこの書板の内容を公表し、のち全世界に知られるに至った。
ここでは、ギルガメシュは半神半人の英雄でウルクの暴君となっている。女神アルルが粘土からつくりだしたエンキドゥは、ウルクへやってきてギルガメシュと戦ったのち親友になる。2人は森の怪物フンババ征伐に出かけてこれを倒す。次にエンキドゥは天の牛を殺してしまうが、そのため天の神々に死の罰を与えられる。親友の死に涙したギルガメシュは不死を求めてさまよい、ついに遠方(聖者の島)に住むウトナピシュティム(『創世記』のノア)に会う。ここでウトナピシュティムは、昔、神が起こした大洪水(いわゆるノアの大洪水にあたる)の話をする。しかし彼も不死の術は知らず、ただ不老の草を海底からとることを教える。ギルガメシュはこの草をとって帰途につき、途中一休みしている間に蛇にこれを食べられてしまい、悲しみのうちにウルクの城へ戻る。
この物語はオリエント各地で好まれ、シュメール語版、バビロニア語版、アッシリア語版のほかにヒッタイト語、フルリ語などにも部分的に訳され、また円筒印章などのモチーフにも用いられた。今日では十数か国の現代語に訳されている。
[矢島文夫]
『矢島文夫訳『ギルガメシュ叙事詩』(1965・山本書店)』