ヒッタイト語(読み)ひったいとご

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヒッタイト語」の意味・わかりやすい解説

ヒッタイト語
ひったいとご

20世紀の初頭以降、アナトリア高原のボアズキョイヒッタイト帝国の首都ハットゥシャ)から発見された、紀元前1700~前1200年ごろに属する楔形(くさびがた)文字で書かれた粘土板の文書で知られる言語。1917年フロズニーによって解読され、インド・ヨーロッパ(印欧)語族の一言語であることが判明した。この言語の所有者は自らの言語をネシャNeša語とよび、それに対してハッティHatti語というのはハッティ国の先住民の言語である。ヒッタイト語はこれまでに知られたもっとも古い印欧語で、他の同系諸語では失われた古い印欧語の特徴をよく保存している反面、フルリ語その他土着の非印欧語の影響を強く受け、とくに語彙(ごい)の面では著しい変化を被った。ヒッタイト語と並んで、同じボアズキョイ文書の、とくに宗教的・呪術(じゅじゅつ)的内容の資料によって知られる親近な言語としてパラ語およびルウィ語がある。前者はアナトリア北部、後者は南部で行われていた。19世紀以来アナトリア南東部で発見されている前10~前8世紀ごろの「ヒッタイト象形文字」資料で知られる言語は、最近の研究によってルウィ語の一形態であることが明らかとなった。ほかに、前6~前4世紀のアルファベットによる資料を残すリキア語およびリディア語もこれらと親近な言語であり、以上六つの言語をまとめて「印欧アナトリア語派」と称し、ヒッタイト語はそのもっとも代表的な、そして豊富な資料によって研究の進んだ言語である。

[松本克己]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ヒッタイト語」の意味・わかりやすい解説

ヒッタイト語
ヒッタイトご
Hittite language

小アジアにあった古代ヒッタイト王国の言語。 20世紀の初頭,トルコボガズキョイで発見された楔形文字の文書によって知られ,1917年チェコの B.フロズニーによって解読され,インド=ヨーロッパ語族に属することが証明された。再構される印欧共通祖語に近い形を多く保っているので,共通祖語とほぼ同じ時代の古い言語で,共通祖語と並ぶ位置にあると考え,インド=ヒッタイト語族を設定する学者もあるが,一般には,インド=ヨーロッパ語族中の一語派とされている。なお,ヒッタイト象形文字と呼ばれる一種の象形文字で書かれた前8世紀頃と推定される碑文も小アジアで発見されているが,これはルウィ語と関係があるらしい。

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