円筒印章(読み)えんとういんしょう

改訂新版 世界大百科事典 「円筒印章」の意味・わかりやすい解説

円筒印章 (えんとういんしょう)

小さな円筒形石材の曲面文様を彫りこんだ印章シリンダー・シールcylinder sealとも呼び,生乾きの粘土板文書の上にころがして使う。メソポタミアで前4千年紀末のウルク期に出現し,新バビロニア時代に至るまで長期にわたって広く愛用された。施された意匠は時代,地域により少しずつ異なり,単純な繰返し文様から,人物,動物,神々,精霊などが登場して場面を構成する複雑なものまである。印章の持主の名が刻まれていることも多く,持主が自らの守護神の前で礼拝を行っている場面もしばしば見られる。メソポタミアの美術品のなかでは,庶民性の漂う数少ない遺品の一つである。エジプトなどにも伝播した。
印章
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百科事典マイペディア 「円筒印章」の意味・わかりやすい解説

円筒印章【えんとういんしょう】

西アジアで用いられた印章。円筒形の石,貝殻ガラス模様を陰刻し,柔らかい粘土の上にころがして浮彫のような図柄をつくる。時代,民族によって形,構図などに相違があるが,ウルク期(ウルク文化)末期ころから魚,動物,人間が描かれるようになり,のち神話を主題にした構図や,神・王などを中心にした宗教行事などが描かれ,所有者の名前も彫られるようになった。
→関連項目シュメールシリンダー

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「円筒印章」の意味・わかりやすい解説

円筒印章
えんとういんしょう
cylinder seal

シリンダー・シールとも呼ばれる。古代シュメール人によって最初に使用され,その後メソポタミア,イランシリアアナトリア,エジプトなどで広く用いられた円筒形の印章。貝殻や石でつくられ,幾何学文,動物文,神話的英雄と野獣との戦いの図などが刻まれており,ときに名前も刻まれた。その用途は明らかでないが,魔術的意味がこめられて護符として用いたか,あるいは行政上または通商上,湿った粘土板に回転させて押印したものと推定されている。

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「円筒印章」の解説

円筒印章(えんとういんしょう)
cylinder seal

古代メソポタミア独特の印章。軟らかい粘土板の上で回転させて陽刻をつくる。文様は神話的情景が多く,その分布はアナトリア,イラン,エジプトに及び,文明圏拡大の証拠となる。

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世界大百科事典(旧版)内の円筒印章の言及

【アッシリア美術】より

バビロニア美術 古アッシリア時代(前2千年紀中ごろまで)の美術作品は,現在ほとんど知られていない。アッシュールに城塞が営まれ,神殿も建設されたことが発掘の結果認められ,またマリ出土の彫像によく似たスタイルを持つ人物彫刻や,円筒印章などがわずかに発見されている程度である。中期アッシリア時代(前1千年紀初めまで)には,アッシュールにいくつかの神殿,ジッグラト,宮殿などが造営された。…

【印章】より

…以下,地域に分けてその歴史的展開をあとづける。
【西アジア】
 古代西アジアの印章は,その押し方の違いによってスタンプ印章と円筒印章とに分けられる。スタンプ印章は東アジアの印と同じ押し方をするものであり,円筒印章は軸の中央の小孔に紐を通して身につけ,回転させて粘土に印影をつけた。…

【シュメール美術】より

…なかでも注目されるのは〈モザイク神殿〉で,その壁や柱には一面に円錐形の陶製飾りが底面を壁の表面に残すようにして打ちこまれ,幾何学形パターンの組合せによるモザイク装飾の効果を上げていた。またウルク期には丸彫の人物小像が作られ,後期には円筒印章も使われるようになった。この時期の円筒印章はやや大型で,図柄には人物や動物が登場するさまざまな情景が好んでとり入れられた。…

【彫玉】より

…1cm3にも満たない石の細工にはレンズが必要とされるが,クノッソスに近い墓(前2千年紀前半)から水晶のレンズが出土しており,その使用を例証している。
[メソポタミア]
 彫玉の発祥地であるメソポタミアでは前4千年紀後半から円筒印章が作られた。粘土板に封印を押すのが主たる目的であるため,円筒形の印章表面に陰刻によって動物,神,装飾モティーフなどが刻まれた。…

【封印】より

… このような印章の使用は少なくともおよそ4000年前にさかのぼる。古代バビロニアでは市民が円筒印章ないし頂部に印章を付けた杖を携行し,契約などを交わす際に,それを記した生乾きの粘土板をこれで封印したという。またエジプトではスカラベ型の印章が用いられていた。…

【宝石】より


[宝石の加工]
 硬度の低い軟質石の場合には,のみやたがねなどの金属工具による手彫加工(エングレービングengraving)が可能であるが,一般的に硬度の高い宝石類は,回転工具に研磨材を塗布しながら行う研磨加工が主として用いられる。この技法は前4千年紀後半の南メソポタミアですでに始められていたといわれ,貴石類でつくられる円筒印章などがおもにこの技法でつくられた。円筒印章は沈み彫(インタリオ)で粘土板にころがして使うが,紐でつるされて携帯され,それが着用宝飾石の起源ともいわれている。…

※「円筒印章」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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