改訂新版 世界大百科事典 「シクロブタジエン」の意味・わかりやすい解説
シクロブタジエン
cyclobutadiene
環内に共役二重結合を有する環式炭化水素のうちの最も簡単な化合物。炭素原子4個からなる4員環内に二重結合を2個有し,きわめてひずみが大きい。長い間その合成が種々試みられ不成功に終わっていたが,1965年プティR.Pettitにより,シクロブタジエン-鉄カルボニル錯体と4価セリウム塩との反応で,配位子であるシクロブタジエンが遊離されることが示された。このものは常温付近では不安定で,ただちに他の共存する化合物と反応するか,それ自身二量化する。その後,ジブロムシクロブテンと金属亜鉛との反応でも生成することが認められた。さらに,光化学的手法を用い極低温(-238℃)で発生させることもでき,この温度では安定で赤外吸収スペクトルの測定が可能である。ベンゼン類似体としての芳香族性の有無について興味をもたれていたが,実際はきわめて不安定で芳香族性を有さない。このことは理論的にも裏づけられている。置換基を有するシクロブタジエンでは安定性が向上し,テトラメチル置換体は-196℃で,トリ(tert-ブチル)置換体は-70℃で安定である。さらに,ジ-メトキシカルボニル-ジ-tert-ブチルシクロブタジエンは常温で安定であり,その炭素骨格は正四角形ではなく長方形であることが明らかにされた。
執筆者:村井 真二
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報