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極低温 きょくていおんvery low temperature

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

極低温
きょくていおん
very low temperature

絶対零度にきわめて近い低温。その温度範囲は明確ではないが,通常は液体ヘリウム4 (沸点 4.2K) 以下の温度をいう。実験室規模で低温を得るには,80K程度は液体窒素,10K程度は液体水素,1K程度は液体ヘリウム4,0.3K程度は液体ヘリウム3などの寒剤を用いる。数 mKまでの低温は希釈冷却法や常磁性塩の断熱消磁法を用いる。さらに核スピン系の断熱消磁法を用いれば数百 μK の低温までの物理実験が可能である。物質の構成分子や原子は,高温度では熱的に攪乱されて無秩序な状態にあるが,低温になるに従って,より秩序のある状態になる。極低温では物質の秩序状態 (量子力学的な基底状態) が観測できる。たとえば磁性体の磁気的相転移,超伝導現象,液体ヘリウムの超流動の現象が観測され,その研究が体系づけられ極低温物理として発展をとげている。低温技術の応用には,超伝導の利用 (超伝導磁石スクイド ) ,測定器の熱雑音の除去,液化によるガス輸送の省力化などがある。

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デジタル大辞泉の解説

きょく‐ていおん〔‐テイヲン〕【極低温】

絶対零度(セ氏零下273.15度)に近い、極めて低い温度。ふつう、ヘリウムの沸点である4K(セ氏零下約268度)以下をいい、0.01K以下をさらに超低温とよぶことがある。超伝導超流動現象などが現れる。

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百科事典マイペディアの解説

極低温【きょくていおん】

絶対零度に近いきわめて低い温度領域。現在は液体ヘリウムによって実現できる温度,すなわち4〜0.01K(絶対温度)をいう。空気液化装置と同様な方法で気体を急激に断熱膨張(断熱変化)させることにより1Kまでの低温が得られるが,それ以下は断熱消磁を用いる。
→関連項目カピッツァジオーク電気抵抗メーザー

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世界大百科事典 第2版の解説

きょくていおん【極低温 very low temperature】

きわめて低い温度をいうが,具体的に何度以下を指すかは時代によって異なり,現在ではおおむね液体ヘリウム4の液化によって得られる約4K以下の温度域を指すのが一般的である。さらに低い1mK以下の領域を超低温と呼ぶこともある。
[低温への挑戦
 現在,実験室では10-6Kというような低温が純粋に学術的な興味から実現されているが,このような極低温への挑戦は,より現実的な目的をもって,産業革命のきっかけとなった蒸気機関発明と同時に始まった。

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大辞林 第三版の解説

きょくていおん【極低温】

絶対零度に近い低温。普通、液体水素の温度(20~14 K )以下、液体ヘリウムを用いて実現される最低温度(0.3 K 程度)までの温度範囲。0.01 K 以下の温度領域を超低温という。熱運動の影響が少なく、超伝導・超流動などの現象がみられる。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

極低温
きょくていおん

きわめて低い温度領域。すなわち物理学において、室温から比べると十分に低い、いわゆる絶対零度に比較的近い温度領域をさす。しかし、この温度領域は、物理学の進歩とともに、最低到達温度が飛躍的に低下し、1981年には核断熱消磁の成功によって、絶対温度で20マイクロK(1マイクロKは100万分の1K)付近に到達できるようになった。さらに1995年、アルカリ金属であるルビジウム87(87Rb)のレーザー冷却により20ナノK(1ナノKは10億分の1K)が、アメリカのコロラド大学と国立標準技術研究所が共同運営する宇宙物理学複合研究所(JILA=Joint Institute for Laboratory Astrophysics)によって実現された。そこで、新たに「超低温」なることばも低温物理学のなかで用いられるようになった。[渡辺 昂]

どこからが極低温領域か?

現在の物理学においては、極低温領域とは、0.1K(絶対温度)以下の温度領域をさすと理解するのが適当である。なぜならば、この温度を境として、より低温の領域では低温の生成法も異なり、物理測定を高い精度で行うことについても、熱の流入などを考慮するとき一定の困難があったからである。
 しかし、この領域における物理測定は、100分の1Kまでは、1K以上におけるのと同様に、かなり高い精度で行われるようになり、現在では、1ミリK(1000分の1K)前後の温度領域の物理測定が比較的容易に行われている。それは、一つは同位元素(アイソトープ)であるヘリウム3(3He)とヘリウム4(4He)の量子効果を利用した希釈冷凍器の冷凍能力の大きな装置が商品化されたこと、もう一つは、量子干渉効果を用いた測定素子SQUIDの開発を中心としたエレクトロニクスの発達による。
 核断熱消磁法によって10マイクロK付近への到達が可能となり、低温物理学のこの分野の発展によって1ミリK以下における物質の物理学的性質が解明されてきた。その結果1ミリK付近からさらに低温の領域を「超低温」とよぶようになった。磁気浮上式鉄道、超伝導発電機および電動機の開発、超伝導電力送電の開発、高エネルギー加速器用・MHD発電(磁気流体発電)用・または未来の核融合反応用の超大型の超伝導電磁石などの開発が、現在も進められている。[渡辺 昂]

冷凍技術と極低温工学の発達

物理学でいう極低温とは異なり、人間が生活する室温である約20℃に比較してかなり低いと考えられる温度、たとえば液体窒素の温度付近を極低温ないしは超低温ということがある。これは工学における冷凍技術からみた極限温度と考えられてきたからである。
 フロンガスを冷媒とした電気冷蔵庫のフリーザー(冷凍庫)内の温度は、おおよそ零下15~25℃である。1960年ころまでの冷凍保存とはこの温度領域であった。さらに低い温度といっても、特殊な目的のためにドライアイスを用いて零下77℃に到達するのが限度であった。ところが1960年以降の経済の高度成長期を通じて、冷媒として液体窒素の大量使用が可能になってきた。液体窒素の沸点は1気圧の下で78K(零下195℃)である。
 液体窒素を用いた冷凍保存は、冷凍食品の酸化による品質の低下を防ぐために有効である。このために、1960年以降急速に普及し、冷凍食品の流通経路として現在のコールド・チェーンを形成するに至った。このほかに、医薬品の保存、血液・血漿(けっしょう)・血清(けっせい)の保存にも液体窒素は広く使用されている。また外科医学の分野においても、癌(がん)、ポリープなどの手術に、液体窒素を用いた冷凍麻酔による超低温外科手術も行われている。このようにこれまでにない低温の領域を開発したときに、技術、工学の分野でもその新たな低温領域に極低温、超低温の名を冠してよばれることがある。なお、コールド・チェーンの急速な発達を促したのは、1950年代後半より普及した酸素製鋼法による製鉄所における酸素の大量消費であった。[渡辺 昂]
『中嶋貞雄著『量子の世界――極低温の物理』(1975・東京大学出版会) ▽長谷田泰一郎・目片守著『低温――絶対零度への道』(1975・NHKブックス) ▽永野弘著『極低温と超電導――気体液化のプロセスと応用技術』(1986・啓学出版) ▽渡辺昂著『超流動から超伝導へ』(1991・大月書店) ▽守屋潤一郎著『極限科学のなかの極低温技術』(1992・東京電機大学出版局) ▽荻原宏康・中込秀樹著『極低温のはなし』(1994・オーム社) ▽小林勝著『極低温金属加工』(1998・日刊工業新聞社) ▽関信弘編『低温環境利用技術ハンドブック――低温・超低温・極低温を活かす技術』(2001・森北出版) ▽渡辺昂著『極低温の世界――目に見える量子現象』(新日本出版社・新日本新書)』

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