スロベニア文学(読み)スロベニアぶんがく(英語表記)Slovene literature

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「スロベニア文学」の意味・わかりやすい解説

スロベニア文学
スロベニアぶんがく
Slovene literature

スロベニア語による文学作品の総称。現存するスロベニア語の最古文献は,中世古写本『フライジング写本』 (1000頃) で,スラブ語最古の文献でもある。中世にはバルカン半島全土で民族詩が栄えた。 16世紀なかばにはプロテスタントの布教活動がスロベニアで開始され,宗教文学が発達した。なかでも 1548年の J.ダールマティンによる聖書の翻訳と,A.ボーホリッチによる初めてのスロベニア語文法書の出版は特筆に値する。ヨーロッパのロマン主義運動とそれに伴うナショナリズムは,19世紀前半のスロベニアの知識階級に大きな影響を与えた。 J.コピータルはスロベニア語の標準を確立し,体系的にまとめ上げた。 1830~40年代には M.チョップが世界文学の研究を奨励し,定期刊行物の出版に熱心に取組んだ。 19世紀前期の代表的な詩人 F.プレシェーレンは,近代的な慣用句を用いて,感情や思考の微妙なニュアンスを伝えることのできる文語を確立した。最初のスロベニア語による小説,J.ユルチッチの『10番目の兄弟』は 1866年に出版された。 19世紀後期には西ヨーロッパのスタイルや流行を反映し,また出版なども盛んになり環境が充実して,固有の文学や言語の発展が促進された。
20世紀初期にモダニズム運動が起り,精力的な詩人 O.ジュパンチッチや,名文家で知られた I.ツァンカルによってスロベニア文学は再び開花した。第1次世界大戦後の印象派の代表的な詩人 T.シェリシュカルや M.ヤルツ,A.ボードニクらの作品や,S.グルーム戯曲には,当時の世相を反映して,社会的,精神的な緊張が色濃く表われていた。 1930年代には社会主義リアリズムが登場し,農民や労働者の生活を描いた短編長編の小説が発達した。また E.コツベックはより自由な詩によって現実の魔術的解釈を示した。第2次世界大戦中から戦後を通してリアリズム文学は存続したが,作品の扱うテーマはより深く掘下げられ,間口も広がった。このことは詩人で劇作家の M.ボールや,散文作家で劇作家の I.ポトルチ,M.ミヘリッチの作品に明らかである。のちには西ヨーロッパの影響を受けて,SF作家も登場した。詩では深い内省的な表現が維持され,なかでも J.ウドビッチが代表的な詩人である。韻文のこのような傾向は,V.タウフェル,V.ツゥンドリッチ,D.ザイツら,次世代の詩人たちに引継がれた。

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