日本大百科全書(ニッポニカ) 「ツァンカル」の意味・わかりやすい解説
ツァンカル
つぁんかる
Ivan Cankar
(1876―1918)
スロベニアの小説家、劇作家。リュブリャーナの工業学校を卒業後、ウィーンの工科大学に進むが中退し、創作に専心。最初は詩人として出発したが、のち散文に転じた。蒲柳(ほりゅう)の質のうえ酒に耽溺(たんでき)、困窮の生活を異郷の地で送るが、人間の善性を信じ、正義感にあふれ、抑圧された人々の側にたち、社会悪に対して鋭い批判を浴びせた。辛辣(しんらつ)な風刺と豊かな叙情性に満ちた短編連作を得意とし、同時代の社会を力強い筆致で描いた。小説『異邦人』(1901)、『斜面にて』(1902)、『マルチン・カチュール』(1906)、未完の自伝小説『わが生活』(1914)、戯曲『召使たち』(1910)などは評価が高い。
[栗原成郎]