日本語ではふつうに文章の体をわけて,文語文(文語体の文章)と口語文(口語体の文章)との対立を考えるが,これらはいずれも書きことば(文章語)における文体の相違である。それは主として文法上の機能を負うもの,特に活用や助辞,文末形式などのちがいによって区別されるが(文語--見ゆ,隠る,花なり,咲かむ。口語--見える,隠れる,花だ,咲くだろう),文法機能に関しない単語にもそれぞれの傾向がみられる。このような文体の特徴をなす用語が文語であって,その中には歌語とか雅語といった特殊の古典的文語も含められる。口語文の中にも文語の形が用いられることがあり,文法体系から孤立しながらしばしば用いられるものがある(堂々タル人物だ,考えるベキでしょう,東京にオケル大会は……,など)。口語文は明治以来の言文一致の運動の結果として作りあげられてきたものであるが,現在では文語文は実用の世界ではほとんど用いられていない。過去の文章としての文語文は,さらに用語の特色によって普通文,候文,漢文訓読文などに分けられる。明治中期は,いろいろな面で各種の文語文が公式の格式のある文章として用いられたが,それは一つには長い伝統,たとえば漢文尊重のあとをうけ,また一種の安定した形式として安全感を与えるとともに,権威主義によってささえられたものでもあった。詔勅,法令文や公用文,官庁・会社等の通信文は,最もおくれて第2次世界大戦後に口語化した。日本の文語文と口語文のような対立は,中国の文言文と白話文も同様で,文字をもつ各言語では多かれ少なかれこのような文体の差がある。文字のない言語でも,改まった儀式や伝承などの際には,文語にあたる特別のことばを用いることがある。
このような文語は,多くの場合前時代の口語が書かれたり,特殊の場合に用いられたりするために,固定して口語の変化に取り残されたものとみられるが,文語それ自身も変化し,洗練されたことはいうまでもない。一方,文語と口語との対立を,一般に書きことばと話しことばとの体系のちがいとして考えることもある。すなわち,言語活動が文字を媒介として行われる場合に用いられることを予想する記号の体系または記号のそれぞれを文語というのであって,この場合には,文語はさきの文語文の用語ばかりでなく,口語文の用語をも含む。その口語文は,話しことばに近いものではあるが,文語たる口語文と実際の話しことばとの間には,文字の制約だけでなく,多少のちがいがある。たとえば口語文の〈である〉は話しことばではほとんど用いない。〈ないのです〉は普通会話ではナインデスに弱められる。しかしいわゆる口語文法は,本来いわば口語文の文法なのではあるが,話しことばをも規制するものと一般には考えられている。
→口語 →文語体
執筆者:林 大
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音声によって表された口語に対して、文字によって書き表されたことば。文字言語。書きことばともいう。ただし、日本語では、日常、話したり書いたりする、いわゆる現代語を口語というのに対して、古い時代のことばおよびそれと同種のことばを文語とよぶこともある。
平安時代にほぼ確立した和文の表現形式は、それ以後の文章にも継承され、文章の形式として主流であり続ける。正式な文章として世の中で認められるものは平安時代の和文の流れをくむものであり、そのため文語すなわち古語という考え方がつくりだされた。明治以降、言文一致運動が世の主潮となり、話しことばに近い文章語が書かれるようになるが、古典を知るという必要性もあって古語の学習が行われる。それが文語の学習とよばれたこともあり、文語すなわち古語というとらえ方は強いものとなる。この意味での文語の特徴は、動詞活用が9種類、形容詞・形容動詞活用が各2種類あり、「が」「を」といった格助詞の使用が少ないといった文法に関する事項のほか、使われる語彙(ごい)に関してもかなりの違いがある。また、文語を書きことばとして考えると、文法の面では、主格・目的格などを表す格助詞は、ごく特別な場合以外使われないといったことがあるほか、語彙の面では漢語が多くなるということがあり、文体の面では、係りと受けとの語の照応が細かく求められるということがある。
[山口明穂]
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