日本大百科全書(ニッポニカ) 「チロール」の意味・わかりやすい解説
チロール
ちろーる
Tirol
オーストリア西部の州。北はドイツのバイエルン州、南はイタリアのトレンティーノ・アルト・アディジェ州に接する。チロル、ティロルとも書く。広義(地域名)にはイタリア領の南チロールを含む。イタリア語名ティロロTirolo。面積1万2648平方キロメートル、人口67万5063(2001)。州都はインスブルック。第一次世界大戦でオーストリアが敗れるまでは、現在のイタリア領北部山岳地方も含む大きな州であったが、1919年のサン・ジェルマン条約により、アルプスの主分水界に国境が設定され、現在の領域に縮小された。そのため、かつては一続きだったチロール州は、オーストリア領内で北チロールと東チロールに分離される結果を招いた。チロール人はイタリアに割譲された旧チロール州の部分をいまも南チロールとよび、一体性を強調する。南チロールを含むイタリアのボルツァーノ県では住民の66%がドイツ語を使用する。
紀元前1世紀ローマ人に征服され、紀元後6世紀以降バイエルン人の侵入によりゲルマン化がなされた。13世紀にチロール伯が統一し、1363年その大部分はハプスブルク家に帰属した。早くから山地農民の自立による郷土意識が養われ、チロール人のもつ独立的性格はオーストリア諸地方のなかでも独特のものである。ナポレオンの侵攻に対し、農民アンドレアス・ホーファー指揮の下に抵抗し、一時はこれを退けた誇りをいまも失わぬチロール人は、その記念すべき年である1809年以降、25年ごとに州都インスブルックで盛大な独立解放記念祭を行うため、州内各地から人が集まる。
チロールはオーストリアでも高山が集中する地方で、氷河、森林、牧草地の調和のとれた自然景観をもち、国外から多くの観光客を集める。各地にロープウェー、リフトが発達し、その数は全国の3分の1にあたる。四季を問わず山岳の自然を楽しむことができ、ホテル、旅館、ペンション、民宿などの施設が整っている。年間延べ宿泊者数は全国の約3分の1を占める。オーストリア・スキーのメッカであり、シュトゥバイ・アルプスをはじめ氷河上で一年中スキー可能なところがある。1970年代初めに完成したアウトバーンを利用してドイツから訪れるスキー客や短期旅行者が多い。
[前島郁雄]