改訂新版 世界大百科事典 「ハイブリッド炉」の意味・わかりやすい解説
ハイブリッド炉 (ハイブリッドろ)
hybrid reactor
核融合炉は,炉心となる超高温プラズマの周囲にブランケットと呼ばれる部分を有し,そこで燃料となるトリチウムの増殖と,発電に必要とされる高温の発生を行わせている。このブランケット部に,さらに加えてウランとかトリウムのような核分裂炉用の物質を入れ,炉心より放出される高高速(約14MeV)中性子でもってそれらを照射しようというものを核融合・核分裂ハイブリッド炉,単にハイブリッド炉あるいは混合炉と呼ぶ。ハイブリッド炉の活用法としては,おもに次の二つが検討されている。
(1)核分裂炉用燃料の生産 中性子照射によって天然ウラン(238U)からプルトニウムを,あるいはトリウムからウラン(233U)を生産しようというもので,機能的には,今日開発中の高速増殖炉とか転換炉と競合することになる。しかし,ハイブリッド炉の核分裂燃料の生産性は単位出力で比較すると高速増殖炉に比べてはるかに高いから,高速増殖炉の初期装荷用プルトニウム生産炉として役だつであろうとの見解もある。いずれにせよ,このような核融合炉の使い方は,核分裂炉と核融合炉が,核燃料サイクル的にみて一つのシステムを構成することを意味するから〈核分裂・核融合共成系〉と呼ばれる。
(2)エネルギー増倍炉 純粋の核融合炉は,核融合反応のみによってエネルギーを得るものであるが,そのような炉に必要とされるプラズマ条件(ローソン条件)の実現はかなり遠い将来になろうという意見がある。そこで,プラズマ条件を緩和し,エネルギー利得(核融合反応によって放出されるエネルギーとプラズマを外部から加熱するのに必要なエネルギーの比)Qf≃1程度の核融合炉をまず開発し,それによって生ずる中性子でウランとかトリウムの分裂反応を起こしてエネルギーを増倍させようというのがこの炉の目的である。核分裂によって追加されるエネルギーは,核融合出力の数倍から,設計によっては数十倍にもなると試算されている。
以上説明したように,ハイブリッド炉は,原理的に核融合炉心プラズマに要求される物理条件を実現容易ならしめるものであるが,ブランケット構造が非常に複雑になるうえ,核分裂炉に比しクリーンであるという核融合の利点を捨ててしまうことになるから,その開発推進に消極的立場をとる見方もある。
執筆者:桂井 誠
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報