水素のような軽い原子核同士が、膨大なエネルギーを放出しながら融合し、重い原子核に変化する現象。通常の水素より重い重水素と三重水素を燃料とした場合、放出されるエネルギーは1グラムで石油8トン分に相当する。二酸化炭素(CO2)を排出せず、クリーンエネルギーとして発電への利用が期待されている。米ローレンス・リバモア国立研究所などのレーザーを利用した方法のほか、燃料を高温のプラズマと呼ばれる状態にして反応させる国際熱核融合実験炉(ITER)計画がある。
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二つ以上の原子核が衝突して核反応を起こし,衝突前よりも原子番号の大きい元素が生ずる現象。原子核融合ともいう。核融合の中には,各種素粒子反応を中間過程に含んで多段的に進行するものもある。この逆の過程が核分裂である。核分裂がウランなどの重い(原子番号の大きい)元素で起きやすいのとは対照的に,核融合は軽い(原子番号の小さい)元素で起きやすい。宇宙に存在する各種の元素は,水素などの軽い元素を親物質として核融合反応によって作られたことが知られている。核融合が起きるためには,二つの原子核が互いのクーロン反発力(原子核は正の電荷をもつ)に打ち勝って十分接近する必要があり,そのために原子核どうしはある程度のエネルギー(言いかえればある程度以上の相対速度)をもって衝突しなければならない。人工的に核融合反応を起こそうとした場合,このようなエネルギーは加速器を用いて与えることができるが,必要とされる加速電圧は数十kV程度以上である。また,この反応に必要なエネルギーは,物質を高温に加熱することによって熱エネルギーの形で原子に与えることができる。その場合に必要とされる温度は数億度という超高温で,物質は必然的に完全電離のプラズマの状態にある。この超高温プラズマ内での熱運動によって起こる核融合反応を熱核融合と呼んでいる。
多くの核融合反応においては核分裂と同様質量欠損が生じて,アインシュタインの公式E=mc2(Eはエネルギー,mは質量,cは光の速度)に従ってエネルギーが放出される。このエネルギーはおもに核融合反応によって生じた反応生成物の運動エネルギーとして放出される。いま,熱核融合のようにプラズマ内で核融合反応が起こると,高速で放出された反応生成物は電離したイオンの状態にあるため,周囲のプラズマ粒子とクーロン衝突を行って自身は減速を受け,その過程でエネルギーを周囲に与える。このような効果を核融合によるプラズマの自己加熱,あるいは内部加熱と呼ぶ。ただし,反応生成物の中で中性子は電荷をもたずクーロン衝突を起こさないから自己加熱には寄与せず,プラズマ外へと放出される。核融合を起こすような条件下にあるプラズマの温度と密度が非常に高まると,自己加熱量がプラズマからの各種エネルギー損失(放射や熱伝導,熱伝達による)を上回り,熱核融合反応はプラズマ内で持続し続ける。
イギリスのE.ラザフォードは1919年,ラジウムより放出されるα線(ヘリウムHeの原子核)が空中の窒素Nと衝突して,の反応が起こり,酸素Oが生じていることをつきとめた。これは人類最初の原子核変換実験であり,この反応は軽い元素Nから重い元素Oが生成されているという点で核融合反応の一つの例である。
核融合反応は,われわれの住む宇宙内の物質を作るうえで主要な役割を果たしていることを述べた。今日,信じられている膨張宇宙論によると,宇宙はビッグバンによって生成され,その直後においては極高密度,極超高温状態にあって,内部は高エネルギーの粒子で満たされていたといわれている。この宇宙が時間とともに膨張して冷えていく過程において,粒子は種々の反応を起こして陽子とか中性子を作り,さらにそれらが各種の核融合反応を起こしてより重い元素を作っていったことが知られている。
宇宙スケールでの核融合反応の例として,太陽を代表例とする恒星があげられる。恒星は水素を主構成要素とし,自身の重力で巨大な超高温のプラズマ球体を形成しているが,その内部においては,の核融合反応が起こっている。恒星の進化の進んだ巨星の段階ではこの反応に加え,Heなどの反応生成物を親物質としてより重い元素を作る核融合反応が起こり,その結果として炭素,窒素,酸素などの各種同位体が存在している。そして上述の核融合反応は,実際には2個の水素から重水素,最終的にヘリウムへと積み上げる陽子-陽子鎖反応(p-pチェーン),または炭素,窒素などを触媒とした炭素・窒素サイクル(C-Nサイクル)と呼ばれる過程を通して行われているのである。C-Nサイクルは次に述べる核融合炉のためのDT反応やDD反応より反応速度は非常に遅く,それを用いて地上で人為的に持続反応を起こすことは不可能と考えられている。
恒星内部で起こっているような原子核どうしの核融合反応によっては,あまり重い元素は作られない。なぜなら,一つには重い元素の核は価電数が大きく互いのクーロン反発力が強いから,星といえども重い元素の核融合反応を起こせるほど中心温度を高温にすることがむずかしいからである。また原子核どうしの核融合ではせいぜい鉄までしか作ることができない。それは鉄がもっとも安定な元素で,それ以上重い元素を作るにはエネルギーを加えなければならないからである。しかし,重い星の進化の最終的な段階においては,いわゆる超新星爆発が起こり,このような状態になると高温の内部へ外部の水素が混入し,ある種の核反応で作られた中性子が周囲の元素と衝突して,さらに重い元素を作るようになる。中性子は電荷をもっていないから容易に相手の核内に入り込むことができ,そこに捕獲される。この反応は中性子捕獲反応と呼ばれ,電荷をもつ核どうしの核融合反応と区別されている。中性子捕獲反応によると一般の元素maAは,という過程を通して,一つの原子番号の重い元素に変換されうる。ただし,こうして作られた重い元素も,ある程度以上重くなると核が不安定となって崩壊してしまう。そういうわけで,われわれの地球では水素からウランまで約100種の限られた数の元素しか存在していないわけである。
地上において比較的容易に起こすことが可能な核融合反応として,次のものが知られている。
DT反応
2D+3T─→4He+1n+(17.6MeV)
DD反応
D3He反応
2D+3He─→4He+1p+(18.3MeV)
この式でDは重水素(ジュウテリウム)2H,Tは三重水素(トリチウム)3H,nは中性子,pは陽子,を表し,最後の( )内の数値はその反応で放出されるエネルギーを表す。これらの熱核融合反応率は図1に示すようなもので,DT反応がもっとも起こりやすい。そこで,この反応を利用してエネルギーを取り出すことが期待されるが,トリチウムは半減期約12年の放射性同位元素であって天然には存在しない。しかしトリチウムはリチウムLiに中性子を照射して人工的に製造することができ,その場合の反応式は次式で与えられる。
この反応に基づき,トリチウムの製造を原子炉(分裂炉)を用いて行うことができるが,核融合炉ではDT反応自身によって生ずる中性子を用いて自己増殖させることも可能であり,その目的にリチウムを装荷したブランケット部を炉心プラズマの周囲に設けることが必要となる。
このようにDT反応,DD反応などを用いると,地上で巨大なエネルギーを取り出すことができるが,その実用はすでに水素爆弾(水爆)という型で達成されている。これらの核融合兵器において,点火に必要とされる超高温は核分裂爆弾(原爆)によって発生される(核兵器)。そこで,原爆を用いることなく,人間が制御できる規模で核融合を起こしてエネルギーを取り出そうとするものが制御核融合である。
制御できる状態で上記のような反応を起こさせる(制御核融合)には,高温のプラズマを閉じ込める必要がある。プラズマ閉込め方式としては,プラズマの慣性効果を利用する〈慣性閉込め方式〉と,磁界のプラズマ閉込め効果を利用する〈磁気閉込め方式〉に大別される。
慣性閉込め方式においては,燃料となる物質(D,T)を直径数百μm~数mmの微小な容器(マイクロバルーン)内に高圧封入したものをターゲットとし,極短時間(数ns)に,巨大出力(数十テラワット(1013W)以上)のレーザー光線,あるいは粒子ビームを周囲より照射する。このとき表面層は急速に加熱され膨張飛散するが,その反作用としてマイクロバルーン内の燃料は高密度に圧縮加熱されて核融合反応が点火される。この方式は,圧縮に原爆を用いないという点を除けば動作原理は水爆と同じものであり,アメリカなどにおいてはエネルギー源開発という観点ばかりではなく,改良型水爆開発,あるいは中性子爆弾開発のための基礎研究という面からも重要視されている。
一方,磁気閉込め方式は,プラズマを構成するイオンとか電子が磁界の中で運動を拘束されるという力学的効果に基づいている。この場合に用いられる磁界の分布(磁界配位)は,大別すると開放端型(オープン系)とトーラス型(ドーナツ状)に分類される。前者の代表はミラー磁界であり(図2),これは互いに対向して設置された二つの円形コイルに同方向の電流を流すことによって発生され,プラズマはその中央部にトラップされる。一方,トーラス型の磁界は,ドーナツ状に配置したコイル群によって作られ,磁力線は閉じた形になる。しかし,このような単純な磁力線構造ではプラズマの閉込め効果はない。プラズマを閉じ込めるには,例えていえば手ぬぐいを絞るような感じで磁力線に回転変換と呼ばれる“ねじれ”を与える必要がある。この“ねじれ”を,ドーナツ状容器の周囲に巻いたらせん状コイルの電流によって与える方式をステラレーター方式,これと異なり,変流器の原理でプラズマ中に電流を流して与える方式をトカマク方式と呼んでいる。さらに発展した方式として,トカマク方式のトーラス方向の磁界を,外部コイルを用いることなくプラズマ内の電流で発生させようとする方式も考案され,スフェロマック方式と呼ばれている。プラズマ中の電流は,変流器方式のほか,高周波電力とか粒子ビームを用いても駆動可能で,その場合,変流器方式がパルス動作に限られるという制約から原理的に解放され,ミラーやステラレーター方式と同様定常動作が可能となる。
執筆者:桂井 誠
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軽い原子核の衝突によって、より重い原子核をつくる原子核反応のことを核融合反応、あるいは単に核融合という。軽い原子核、すなわち質量数の小さな原子核には、陽子1個からなる質量数1の水素(H)、陽子と中性子1個ずつからなる質量数2のジュウテリウム(重水素ともいう。Dまたは2Hで表す)、陽子1個と中性子2個からなる質量数3のトリチウム(三重水素ともいう。Tまたは3Hで表す)、陽子と中性子2個ずつからなる質量数4のヘリウム(4He)などがある。ウランなどの重い原子核が分裂して、より軽い原子核をつくる原子核反応である核分裂と同じく、核融合でも大きなエネルギーが放出される。太陽のように輝いている恒星のエネルギーは、内部でおこっている核融合によるものである。核融合反応を制御してエネルギー源として利用することは、まだ実現されていないため、一般に原子力、原子力エネルギーという場合、核分裂によるエネルギーをさすことが多いが、本来は核分裂だけではなく、核融合も含めた原子核反応によって放出されるエネルギーを核エネルギー、原子力エネルギー、原子力などという。
[加藤幾芳]
核融合や核分裂など原子核反応に伴って放出されるエネルギーは、燃焼などの化学反応に伴うエネルギーと比較するとおよそ100万倍で、化学反応によるエネルギーがeV(電子ボルト)の単位で測られるのに対し、原子核反応によるエネルギーはMeV(メガ電子ボルト。M=メガは100万倍を意味する)の単位で測られる。原子核反応で放出されるエネルギーの大きさは、反応前の原子核を構成している核子(陽子、中性子)の結合エネルギーと、反応後の原子核の核子の結合エネルギーとの差で決まる。原子核の核子あたりの結合エネルギーは、
のように、鉄(Fe)やニッケル(Ni)など中程度の質量数の原子核では大きく、水素(H)など質量数の小さな原子核や、ウラン(U)など質量数の大きな原子核では小さい。結合エネルギーの小さな原子核から結合エネルギーの大きな安定な原子核をつくる核融合や核分裂の原子核反応によって、結合エネルギーの差に伴うエネルギーが放出され、MeVの大きさになるのである。また、ウランなど重い原子核の核分裂に比べ、水素やヘリウムなど非常に軽い原子核の核融合が、より大きな1核子当りのエネルギーを放出することも、 から明らかである。核融合反応は、加速器などを用いて原子核どうしを衝突させることでも実現できるが、それはわずかな量の原子核の核融合であり、エネルギー源としては適当でない。燃料として利用できるように物質を核融合させるには、まず、電気的に中性の原子から電子をはぎ取り、プラスの電荷をもつ原子核だけの状態がつくられなければならない。これをイオン化といい、イオン化した原子核のガス状態をプラズマという。恒星の内部では、重力によってつくられる高温・高圧のもとで、原子どうしの衝突によって電子がはぎ取られた原子核だけのプラズマ状態が自然につくられているが、エネルギー源としての核融合を地上で実現するためには、人工的に高温・高圧のプラズマを安定に長時間つくらなければならない。また、プラズマ状態にある原子核どうしには、衝突する時に電気的な反発を生むクーロン力(電荷と電荷の間の電気力)が働く。この反発するクーロン力のもとで核融合反応をおこすには、反発力を超えるような大きなエネルギーで原子核どうしを衝突させる必要がある。そのためには、できるだけ高温のプラズマ状態をつくり閉じ込めておかなければならない。たとえば、太陽の中心は2400億気圧、1600万K(ケルビン)のプラズマ状態となっていて、ゆっくりと核融合反応が進行している。このように高温・高圧状態のプラズマによる核融合反応を熱核反応という。
地上で高温・高圧のプラズマ状態を瞬間的につくり、わずかな時間の間に核融合をおこさせるのが水素爆弾などの核融合爆弾である。この場合は、ウランなどを用いた核分裂によって高温・高圧の状態をつくり、周りに配置したジュウテリウムやトリチウムなどの原子核を核融合させ、核分裂よりもいっそう大きなエネルギーを発生させるのである。
[加藤幾芳]
核融合反応にはさまざまなものがあるが、将来、利用可能な反応は次の二つの反応である。nは中性子(ニュートロン)、pは陽子(プロトン)を表す。3Heはヘリウムの同位元素ヘリウム3である。
(1) D+D→3He+n+3.27MeV
→3H+p+4.03MeV
(2) D+T→4He+n+17.58MeV
(1)をDD反応、(2)をDT反応とよぶ。DD反応のほうが、ジュウテリウムを海水から得ることができるなど資源的に優れているが、核融合をおこさせる高温・高圧のプラズマの条件を実現しやすいDT反応の利用が考えられている。核融合によるエネルギーの利用は、有害な核分裂生成物を生成しないことや燃料となる水素や重水素が海水に含まれておりほとんど無尽蔵であることから、魅力ある未来のエネルギー源として期待されている。
[加藤幾芳]
恒星の内部で生じている核融合反応についても、星の大きさや質量によってさまざまな反応がおこっている。たとえば、太陽の場合、大部分が水素であり、ppチェイン(ppチェーン、pp連鎖反応とも)とよばれる次の連鎖反応がおこっている。
上の表において、γ(ガンマ)はγ線、e+は陽電子、e-は電子、ν(ニュー)はニュートリノである。また、放出エネルギーでの2倍の因子は2回反応がおこることを示している。
つまり、2個の陽子(p)が衝突してジュウテリウム(D)の原子核をつくり、これに陽子が衝突してヘリウムの同位元素であるヘリウム3(3He)になり、ヘリウム3の原子核どうしが衝突してヘリウム4(4He)の原子核となる。結局、4個の陽子で1個のヘリウムをつくる核反応がおこっている。この過程で多量のエネルギーが発生し、γ線が放射され、ニュートリノ(ν)が放出される。この連鎖反応を模式的に表すと、
のようになる。なお、それぞれの反応平均時間は、温度1300万Kでは、(1)が140億年、(2)が10-19秒、(3)が5.7秒、(4)が100万年である。実際、太陽は最初の反応がゆっくり進行するため、水素が燃えつきるまであと63億年は燃え続ける。しかし、1秒当りおよそ3.6×1036個の水素が核融合し、膨大なエネルギー(3.8×1026J)が放出されている。[加藤幾芳]
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二つ以上の原子核が核反応を起こして融合し,反応前よりも質量数の大きな原子核を生成する現象.核融合を起こさせるためには,クーロン反発に打ち勝って原子核どうしを接近させる必要があるので,大きなエネルギーで原子核どうしを衝突させなければならない.実験室的には,加速器によって原子核を加速して核融合を起こさせる.大規模には数億度の超高温を実現して裸の原子核どうしを衝突させることができれば,核融合が起こるはずである.核融合は原子番号の小さな元素で起こりやすい.たとえば,水素の同位体である重水素(2H)とトリチウム(3H)は,核融合によって 4He と中性子にかわり,そのとき多量のエネルギーを放出する.反応物質の単位質量当たりに発生するエネルギーを比較すると,ウランの核分裂で発生するエネルギーは石油の200万倍程度であるが,上述の水素の核融合で発生するエネルギーはさらに多く,核分裂の数倍になる.宇宙に存在する重い元素は,水素などの軽い元素が核融合を起こして生成したと考えられている.また,太陽などの恒星は,その内部で水素などが核融合を起こしながら,エネルギーを宇宙空間に放出している.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
(渥美好司 朝日新聞記者 / 2008年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
…この種の反応は非弾性散乱などとともに核構造を調べるのにきわめて有力な手段になっている。また原子力で主要な役割を演ずる核反応,すなわち核分裂と核融合も,別種の組替えである。核分裂は,例えば,ウランの原子核が入射中性子を吸収して,ほぼ同じ大きさの二つの原子核に分裂する反応である。…
※「核融合」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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