バージン・グループ(読み)ばーじんぐるーぷ(英語表記)Virgin Group

日本大百科全書(ニッポニカ) 「バージン・グループ」の意味・わかりやすい解説

バージン・グループ
ばーじんぐるーぷ
Virgin Group

イギリスの企業グループ。バージン・グループは中核となる持株会社をもたず、実態は100以上の企業からなるコングロマリット(複合企業)である。グループをつなぐものは創業者リチャード・ブランソンRichard Branson(1950― )のリーダーシップと、バージンというブランドである。バージンのブランドは世界的にも知名度が高く、イギリスでもっとも有名なブランドという評価もある。傘下の会社には、バージン・アトランティック航空Virgin Atlantic Airways、バージン・メガストアーズVirgin Megastores、バージン・トレインズVirgin Trainsなど多くの有名企業がある。なお、グループ名および企業名の「バージン」は「ヴァージン」と表記されることが多い。

[安部悦生]

音楽ビジネスからの出発

ブランソンは、16歳のとき学生向け情報誌『スチューデントStudentを創刊して5万部を売り上げ、17歳で高校を中退してビジネスに専念するようになった。当時、イギリスではちょうどレコードの再販売規制が緩和され、ディスカウントで販売できるようになった。ブランソンはこの機会を巧みに生かし、1970年メール・オーダー(通信販売)のレコード販売会社「バージン」を立ち上げた。バージンという名称は、旧来のビジネス慣習を知らない、という含意があった。

 しかし、この会社がイギリスで頻発した郵便ストライキで頓挫(とんざ)すると、ブランソンはディスカウントのレコード・ショップをロンドンのオックスフォード・ストリートに開店。さらにレコードの販売だけでは満足せず、1973年にはレコード製作会社のバージン・レコードを設立した。最初に契約したミュージシャンは当時無名のマイク・オールドフィールドMike Oldfield(1953― )であったが、彼の発表した『チューブラー・ベルズTubular Bells(1973)は500万枚を売り上げる大ヒットとなった。その後、ブランソンはセックス・ピストルズSex Pistols、ローリング・ストーンズThe Rolling Stones、ボーイ・ジョージBoy George、ジェネシスGenesis、フィル・コリンズPhil Collinsなどの有名ロック・グループや歌手らと契約し、1980年代初めにはバージン・レコードを世界屈指の音楽企業に成長させた。

[安部悦生]

航空事業への参入

音楽事業を軌道に乗せたブランソンは、サッチャー政権下での規制緩和を背景に航空産業に乗り出すことを決意。1984年バージン・アトランティック航空を創業し、アメリカ東海岸とロンドンを結ぶ長距離線の運行に着手した。バージン・アトランティックは最初2機の飛行機しか所有していなかったが、機内サービスとして世界で初めてテレビをビジネスクラスの個々の座席に設置したり、空港までのリムジンバス送迎などにより好調な業績をあげた。1985年時点で、バージン・グループは傘下にレコード・ショップ、録音スタジオ、航空会社、ホテルを抱え、2億2500万ドルの売上げ、2500万ドルの利益をあげていた。

 1986年にはバージン・アトランティック航空以外の企業を一つにまとめ、公開会社Virgin Group plcを設立した。その際の宣伝文句「From the rock market to the stock market(ロック・マーケットから株式市場へ)」は投資家層の心を巧みにつかみ、総額5600万ドルの資金を得た。翌年のバージン・グループの売上高は2億3000万ドル以上で、これにバージン・アトランティック航空を加えると3億5000万ドル以上に上った。

 しかし、1987年10月の世界的な株価暴落(ブラック・マンデー)に加え、ロンドンの金融街からのさまざまな干渉を嫌ったブランソンは、1988年にMBO(マネジメント・バイ・アウト)によって市場から自社株を買い戻してグループを私企業に戻した。このときにバージン・ミュージック・グループの25%の株式を1億7000万ドルで売却している。

 1992年、ブランソンは音楽部門のバージン・レコードをソーンEMI(現、EMIグループ)に5億1000万ポンドで売却し、得た資金を航空事業の拡大に投じた。ちょうどこのころ、イギリス最大の航空会社であるブリティッシュ・エアウェイズ(BA)が、バージンの顧客リストをコンピュータから盗もうとした事件が発覚し、結局BAは61万ポンドの賠償金を支払うことになった。バージン・アトランティック航空は1990年代なかば以降、香港(ホンコン)、日本、南アフリカなどに路線を拡張。1996年にはベルギーブリュッセルを拠点とするユーロ・ベルギアン航空を買収した。

 一方、1988年にCD販売チェーンのバージン・メガストアーズをオーストラリアのシドニーで開設し、1991年出版部門のバージン・パブリッシングを設立した。

[安部悦生]

多角化の推進

1990年代は航空事業からさらなる多角化を推進した。1994年にカナダの炭酸飲料メーカーと共同でバージン・コーラVirgin Cola Co. Ltd.を設立してコーラ飲料事業に参入。翌1995年、金融サービス会社のバージン・ダイレクトVirgin Directを設立した。同年イギリス最大の映画館チェーンであるMGMシネマを買収してシネマ・コンプレックス(複合映画館)のバージン・シネマズVirgin Cinemasを展開。1996年にはV2ミュージックというレコード会社を設立して音楽分野に復帰し、またインターネット・サービスのバージン・ネットVirgin Netを立ち上げた。一方、国有鉄道のブリティッシュ・レールが民営化されたのを受けて、1997年にバージン・レール・グループVirgin Rail Groupを設立、鉄道業にも進出した。このほかにも化粧品、アパレル(服飾)などさまざまな業種に進出している。

 このように、バージン・グループはエンターテインメント産業を中心に拡大を続けているが、規制のなかで価格が硬直化したりサービスの質が低下しがちな分野にねらいを定め、顧客サービスを売り物に事業参入するのがブランソンの戦略である。また、非公開企業であるバージンは株式市場からの資金調達ができないため、既存事業の一部を売却することで柔軟な多角化に対応してきた。1992年の音楽部門売却による航空事業てこ入れに続いて、1999年にはバージン・アトランティック航空の株式49%を、路線網の重複しないシンガポール航空に売却、航空事業を強化するとともに、軸足を携帯電話やインターネットなど情報通信分野へと移した。2004年に宇宙旅行会社バージン・ギャラクティックVirgin Galacticを設立し、宇宙旅行ビジネスに着手している。宇宙船と母船、宇宙船基地をつくる計画で、大気圏外から地球を眺める宇宙旅行の値段は一人20万ドルである(2009)。グループ全体の売上高は約130億ポンド(2011)。

[安部悦生]

創業者リチャード・ブランソン

イギリスを代表する企業グループを一代で築き上げたリチャード・ブランソンは、異色の経営者として知られている。ロンドンの金融街シティとはビジネススタイルでも服装でも異質であり、また生活拠点も工場地域の運河に停めた平底船に置き、そこから仕事上の指示を出していた。ブランソンの経営の特徴は部下に大幅な権限を委譲することであった。冒険家としても知られ、1987年に気球で大西洋横断に成功、バージン・ブランドの格好の宣伝となった。しかしその後、気球による太平洋横断と世界一周に挑戦したが、いずれも失敗し、危うく命を落としかけている。なお、1999年にナイトの爵位を与えられている。

[安部悦生]

日本での活動

日本では1989年(平成1)にバージン・アトランティック航空の就航が開始され、翌1990年にバージン・メガストアーズ第1号店がオープン。1999年(平成11)に進出したシネマ・コンプレックスのバージン・シネマズ・ジャパンは、携帯電話など新規事業投資のため2003年東宝に売却され、TOHOシネマズと社名変更した。

 日本でのバージン・メガストアーズは丸井との合弁から始まって丸井の子会社となり、2005年には丸井からカルチュア・コンビニエンス・クラブ(TSUTAYAを運営)に売却され子会社化したが、2009年に吸収合併されて、店舗の多くはその後TSUTAYAとなった。

[安部悦生]

『山田正喜子著『創造する経営――欧米企業のトップ16人が語る』(1993・ティビーエス・ブリタニカ)』『ティム・ジャクソン著、守部信之訳『バージン・キング――総帥ブランソンのビジネス帝王学』(1996・徳間書店)』『デス・ディアラブ著、山岡洋一・高遠裕子訳『リチャード・ブランソン 勝者の法則』(2000・PHP研究所)』『ミック・ブラウン著、片岡みい子訳『新ブランソン物語』(集英社文庫)』『Richard BransonLosing My Virginity ; How I've Survived, Had Fun, and Made a Fortune Doing Business My Way(1999, Virgin Pub., London)』

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