コングロマリット(読み)こんぐろまりっと(英語表記)conglomerate

翻訳|conglomerate

日本大百科全書(ニッポニカ) 「コングロマリット」の意味・わかりやすい解説

コングロマリット
こんぐろまりっと
conglomerate

名詞としては「集塊」、動詞としては「凝集する」といった意味をもち、もともと地質学で用いられた用語だが、1960年代になって、経済学、経営学の分野でも盛んに用いられるようになり、一般的には、企業活動が相互に関連のないいくつもの異なった産業部門にまたがっていること、ないしはそのような企業結合体をさす。冬の暗い北大西洋で船を海底に引き込む大タコを表す「八足海獣」の意味もある。1980年代以降は「複合企業」multi-business、ないし「多業種企業」multi-industryなどと表現されることも多い。

[佐藤定幸・奥村皓一]

合併の形態

アメリカ連邦取引委員会(FTC)は、企業の買収合併(M&A)の形態として、(1)水平合併horizontal merger、(2)垂直合併(垂直統合)vertical merger、(3)コングロマリット的合併、の三つをあげている。

 水平合併とは、同一製品市場、同一地理的市場内において競争関係にある企業間の合併(たとえば、ワシントン市内における二つの牛乳販売会社の合併)であり、垂直合併(垂直統合)とは、同一産業において生産段階が異なるため、競争関係にない企業どうしの合併(たとえば、アルミニウム地金製造会社とアルミニウム製品製造会社との合併)である。

 これに対してコングロマリット的合併は、それ以外のあらゆる形態の合併を含むが、それはさらに(1)地理的市場拡大的合併、(2)製品拡大的合併、(3)「その他」ないしは「純粋の」コングロマリット的合併、の三つに分類される。「地理的市場拡大的合併」は、同一製品を異なる地域的(経済的)市場で生産・販売する企業の合併(たとえば、シカゴの牛乳製造会社とニューヨークの牛乳製造会社との合併)である。「製品拡大的合併」は、生産および(ないしは)配給において機能的には関係しているが互いに競争関係にはない製品を販売している企業間の合併(たとえば、液体牛乳会社とアイスクリーム会社との合併)であり、「その他」ないしは「純粋の」コングロマリット的合併は、上記以外の合併(たとえば、国際通信会社のレンタカー会社買収、鉄道会社とタイヤ製造会社との合併など)である。

 1980年代に入って、巨大資本や巨大銀行が事業部門、金融部門を越えた買収・合併を遂行するようになると(アミューズメントと通信・放送、投資銀行と商業銀行など)、こうした企業結合にもコングロマリットという表現が使われる例が多くなった。

[佐藤定幸・奥村皓一]

コングロマリット全盛時代

アメリカは1960年代に史上三度目の巨大な合併運動期(第1期は1890~1910年、第2期は1920~30年ごろ)を迎えたが、そのなかでコングロマリット的合併、とくに「その他」ないしは「純粋の」コングロマリット的合併が盛んになった。すなわち、1948年から51年までの大型合併のうちコングロマリット的合併が占める比率は37.5%にすぎず、とくに「その他」の比率はほとんどゼロに等しかったが、68年になると全体として合併数が増加したなかで、コングロマリット的合併の比率は88.5%にまで上昇するとともに、そのうちの「その他」の比率も43.6%に増大した。こうした「その他」ないしは「純粋の」コングロマリット的合併が盛んになったのは、反トラスト法によって水平的合併、垂直的合併のみならず、地理的市場拡大的および製品拡大的なコングロマリット的合併がますます困難になったためであるが、主たる要因は企業を安く買収して、高く転売する経営手法にあった。

 1960年代のコングロマリット全盛期に出現した合併の戦略的ねらいは、1株当りの利益の増加、株価上昇を最優先した金融志向の合併であり、既存の事業部門に買収が適合するか否かは第二義とされた。たとえば、ガルフ・アンド・ウェスタン(1989年パラマウント・ピクチャーズに社名変更)のコングロマリット型合併にみられたおもな手法は、企業を株式交換で割安で買収したうえ、別の企業にこれを高値で売却し、その売買益を稼ごうとするものであった。

 コングロマリット的買収・合併のスター的企業として1960年代に注目を浴びたのは、ガルフ・アンド・ウェスタン、リットン・インダストリーズ、ITT、テレダインなど新興企業群であったが、GE(ゼネラル・エレクトリック)のような一部の巨大エスタブリッシュメント企業もその戦略を模倣し、コングロマリット型M&Aに資本を活用するようになった。

[佐藤定幸・奥村皓一]

コングロマリットから多角企業へ

その後コングロマリットはアメリカ内外での批判が強まり、「八足海獣」(コングロマリット)の横行はアメリカ産業の退廃的側面の代名詞とされたが、アメリカの金融界はこれを支持し、大手商業銀行や投資銀行、証券業者も買収資金の提供などで積極的に支援し、見返りとして莫大(ばくだい)な金融利益を得た。そのなかでも、新興コングロマリットのリアスコが株価の投機的値上りを活用して、ニューヨークのマネーセンター銀行の敵対的TOB(株式公開買付)に乗り出し、ウォール街を恐怖に陥れた(マネーセンター銀行とは、国際基軸通貨であるドルの管理運営をも受け持つアメリカの中枢的国際商業銀行の総称)。

 しかし、金融志向のコングロマリット的合併は、買収に際し社債や優先株を発行して買収資金を賄うケースが多く、企業の財務構造は買収活動が活発化するにつれて悪化していった。つまり、長期負債と優先株の累積に伴う利子と配当負担が、長期にわたって財務悪化を招いたのである。こうなると事態は一変し、当時のコングロマリットの代表格LTV(鉄鋼メーカー)は、1968年に大幅減益、69年に大幅赤字に転じた。優良コングロマリットの代表格とされたITTも、財務指標悪化の一途にあった。69年から70年にかけて、多くのコングロマリット企業は減益、赤字、流動性危機に陥り、業績不振と株価低迷により花形企業の舞台から姿を消した。

 そこで、一部の企業は1960年代末に買収した不振部門を売却のうえ、関連の深い事業に絞り込んで生き残りを図った。既存巨大企業にもこの手法が受け継がれ、GEが関連する多業種への展開を70年代初頭から開始すると、75年以降はGMAT&Tエクソン、IBMなどが追随した。1980年代に入ってからも、デュポンのコノコ合併、USスチールのマラソン石油合併など、超大型コングロマリット的合併があったが、独占禁止法規制から合併が困難な場合は、新成長事業へと転換していく戦略的合併をとる企業が増えた。このような企業に対して、1970年代以降は「多角企業」というカテゴリーが加えられた。

 巨大企業が新成長分野を取り込んで世界的規模での成長戦略を志向するようになって、レーガン、ブッシュ、クリントンの各政権下で次第に独占禁止法が緩和された。業界の垣根を越えた巨大資本間の買収・合併に対する規制も緩和、ないしは撤廃されるに至り、1970年代に設けられた巨大銀行やビッグビジネスの支配領域拡大に対する規制緩和、独占禁止法適用除外が認められるようになった。とくに1996年の電気通信法の制定では、通信、コンピュータ、放送メディア、アミューズメントの垣根が取り払われ、通信の王者AT&TはCATVの約60%を買収し、新独占new monopolyを形成した(後に分割)。また99年のグラス‐スティーガル法(1933年銀行法)の実質撤廃によって、商業銀行・投資銀行(証券)・保険の大合同も可能となり、同年4月銀行持株会社のシティコープはトラベラーズと合併して巨大総合金融機関のシティグループを発足させた。これらの新合併企業をさして「通信メディア・コングロマリット」「金融コングロマリット」などと称されるが、「メガメディア」「金融スーパーマーケット」という呼び方も使われる。1960年代に急成長を遂げた新興企業が演出したコングロマリットは、現代産業界の表舞台を去り、新型独占に向けた巨大企業の多角化事業展開に性格をかえて活用されている。

[奥村皓一]

『佐藤定幸著『コングロマリット』(1969・毎日新聞社)』『佐藤定幸著『世界の大企業』第2版(1976・岩波書店)』『松井和夫・奥村皓一著『米国の企業買収・合併』(1987・東洋経済新報社)』『佐藤定幸著『20世紀末のアメリカ資本主義』(1993・新日本出版社)』『奥村皓一著『国際メガメディア資本――M&Aの戦略と構造』(1999・文眞堂)』『奥村宏著『企業買収――M&Aの時代』(岩波新書)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「コングロマリット」の意味・わかりやすい解説

コングロマリット
conglomerate

自社の業種と関係のない異なる業種の企業を買収,合併して巨大化,多角化していく企業をさし,複合企業ともいう。 1960年代のアメリカではこうしたコングロマリットの活動が目立った。当時の代表的なコングロマリットにはITT (インターナショナル・テレフォン・アンド・テレグラフ) ,リットン・インダストリーズテキストロンなどがある。近年は買収攻勢への対抗策も知られるようになったため,企業買収は以前ほど容易に成功しなくなった。

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