日本大百科全書(ニッポニカ) 「ファン・ヘルモント」の意味・わかりやすい解説
ファン・ヘルモント
ふぁんへるもんと
Joan Baptista Van Helmont
(1579―1644)
ベルギーの医化学者。ブリュッセルの貴族の家に生まれ、ルーベンで哲学と医学を学んだが、伝統的医学に飽き足らず、ヨーロッパ各地を巡歴した。1609年ブリュッセル近郊に落ち着き、貧民の医療と化学の研究に打ち込んだ。彼は生理・病理現象を化学的過程と考えるパラケルススの医化学思想を信奉し、化学の学問的地位を高めることに貢献した。そこには魔術的・錬金術的色彩も強いが、合理的な見解も少なくない。すなわち、自然発生や万能溶媒・元素転換などを信じた一方で、物質不滅を確信し、天秤(てんびん)を広く用いて、酸に溶けた金属が元の量だけ回収できることなどを示した。鉢植えのヤナギを5年間水だけで育て、鉢の土の質量減少分は成長したヤナギの質量増加分よりもはるかに小さいことを示した有名な「ヤナギの実験」によって、水が主要な元素であることを証明しようとしたが、これも初期の定量的実験の試みということができる。また、気体(多くの場合二酸化炭素)を初めて空気とは異なった物質と認め、これにガスという名称を与えた。
[内田正夫]