左右の腕の長さの等しい天秤ざおの両端に皿を吊(つ)り、品物の質量を分銅の質量と比較する秤(はかり)。天秤には使用目的に応じて、微量天秤、化学天秤、上皿天秤などがある。現在天秤と称されるものはかならずしも両腕の等しいさおのものばかりではない。不等比のさおで分銅を内蔵し自動的に質量を指示するものを直示天秤、さおの傾きを電磁気力でつり合わせるものを電磁天秤と称している。
人間が最初に用い始めた秤で、現在も最高級の秤はこれに属する。紀元前3000年ごろのエジプトの壁画に表れた天秤は、先細りで軽くじょうぶにつくられたさおをもち、水平を定める装置もついている。古代エジプトの薬法の最小単位は約0.7グラムであるので、天秤の感度はこの10分の1としても、0.1グラムに達したと思われる。分銅には最初石が用いられ、しばしば動物の形につくられていた。天秤による計量には人の恣意(しい)的な操作を入れる余地がないので、正邪を計る神の道具とされた。このため、正義の女神とされるアストライアまたはテミスの像は天秤を捧(ささ)げており、西洋の裁判所には天秤が置かれている。仏教にも同様な説話がある。古代エジプトでは、すでに青銅をつくる過程で天秤が用いられた。青銅は銅と錫(すず)の一定質量比率でもっとも硬い合金となる。天秤の支点、重点にナイフエッジが用いられるようになったとき、その精度は飛躍的に改良された。以後、天秤は冶金(やきん)と化学の有力な道具となり、いろいろな科学の定理や法則の発見に貢献した。
[小泉袈裟勝]
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報
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