翻訳|brake
ブレーキ装置,制動装置ともいう。動いている物を減速・停止させ,また,止まっている物が動き出すのを防ぐ働きをする装置。このような働きを実現するには,運動に逆らう抵抗力を作用させればよい。この抵抗力を物理的性質に基づいて分類すると,摩擦力,電磁力,推力となる。摩擦力はさらに固体間に作用する固体摩擦力と流体に作用する流体摩擦力とに大別される。電磁力は,例えば,発電機を回すときにその回転を止める方向に作用する力であり,抵抗力としての推力は,例えばロケットの逆噴射による力である。運動物体を減速・停止させることを考えると,摩擦力を作用させた場合は,運動物体のもつ運動エネルギーは熱エネルギーに変換され,電磁力の場合は電気エネルギーに変換されることが多い。推力を作用させたときは,運動物体がもっていた運動エネルギーは噴出ガスのような運動物体から離れていく物の運動エネルギーとして運び去られる。一般に,固体摩擦力を利用するブレーキを摩擦ブレーキ(または機械式ブレーキ),流体抵抗を利用するものを流体ブレーキ,電磁力を利用するものを電気ブレーキというが,これらのうち,もっとも広く使われているものは摩擦ブレーキである。
回転体にブレーキ片という摩擦部材を押しつける構造のブレーキが一般的である。ブレーキ本体(回転体とブレーキ片)が摩擦熱によって高温になりやすいので,摩擦ブレーキの設計では熱の逃がし方が重要となる。
摩擦ブレーキは回転体の形状により,ドラム形(円筒形)のドラムブレーキ,ディスク形(円板形)のディスクブレーキに大別できる。ドラムブレーキは,ブレーキ輪というドラム形回転体の外面あるいは内面にブレーキ片を押しつけて摩擦力を発生するもので,自動車用のものでは,コンパクトにまとめる必要から,ブレーキ輪の内側にシューと呼ぶ二つに分かれたブレーキ片を押しつける構造となっている。シューの摩擦面にはプラスチック,金属,有機あるいは無機の繊維などを用いた高温に耐える摩擦材(ライニングという)が張ってある。小さな力で大きな摩擦力を作用させることができる,すなわち,ブレーキ効率が高いことが長所であるが,反面,摩擦熱がこもりやすいことが短所である。
ディスクブレーキは,パッドという二つの摩擦部材でディスクをはさむ構造である。ブレーキ効率はドラムブレーキに比べて劣るが,放熱効果が優れているので,摩擦面が高温になりにくい。すなわち,ブレーキをかけ続けたり,高速走行中に急ブレーキをかけた場合でも,摩擦面が高温になってブレーキ性能が低下するフェード現象が起こりにくく,このため航空機,新幹線や一般の高速鉄道車両,また最近は自動車,オートバイにも広く使われている。なお,航空機用のディスクブレーキはコンパクトに設計する必要があるので,ディスクを多板にすることが多い。
ドラムブレーキの外面にブレーキ片を押しつける形式の摩擦ブレーキをブロックブレーキといい,クレーン,貨車あるいはエレベーターのブレーキによく用いられる。またドラムの外面に鋼のバンドを巻き掛け,バンドに張力を与えることによってドラムを締める形式のブレーキを帯ブレーキあるいはバンドブレーキという。自転車の後輪や巻上げ機によく使われている。
摩擦ブレーキは,押しつけ力の発生方法によって,圧縮空気を利用する空気ブレーキ,油圧を利用する油圧ブレーキ,あるいは電磁石の吸着を利用した電磁ブレーキなどと区別して呼ぶことがある。自動車の常用ブレーキはペダルに加えた力で油圧を発生させてピストンを動かす構造の油圧ブレーキである。油圧は,時間遅れが少なく,大きな力が発生できるうえ,力の加減が容易であり,振動や衝撃が少なく,コンパクトにまとめられるので,ブレーキ用の力発生方法としてたいへん優れている。従来,巻上げ機などの産業運搬機械では,電磁ブレーキがおもに使われてきたが,最近は油圧ブレーキの利用が増えている。
ブレーキのうちでもっとも巧妙なしかけが組み込まれているものは,アンチスキッドブレーキ(アンチロックブレーキともいう)であろう。これは,ブレーキが作用したとき,車輪が回転しないでぬれたり凍った路面を滑っていくのを防ぐのに効果がある。車輪が滑ると直ちにブレーキ力を弱めてやり,滑りが止まると再びブレーキ力を強くして,滑りを防ぐもので,車輪の滑りを検出するには,例えば減速度センサーを用いて,車輪の減速度を測り,この値と正常にブレーキが効いたときの車輪の減速度(予測値)を比較する。予測値よりも大きな減速度を検出した場合,滑りが生じたと判断する。アンチスキッドブレーキは1947年にアメリカの戦略爆撃機ボーイングB47に用いられたのが最初とされているが,最近ではマイコンを用いた性能の優れたものが乗用車に使われ始めている。
摩擦ブレーキの特殊なものとしては,チェーンブロックなどのつり上げ機で手をゆるめたときに荷が下がらないようにするために用いるねじブレーキ,回転数が高くなると効き始める遠心ブレーキなどがある。なお,自動車の走行中,クラッチを切らずにアクセルから足を離したときに作用するエンジンブレーキは,エンジンの圧縮抵抗,エンジン・変速機の機械摩擦を利用した摩擦ブレーキとみなすことができる。
電磁ブレーキや磁極間におかれた導体が移動するときに生ずる渦電流による制動作用を利用した渦電流ブレーキを含めることもあるが,ふつう電気ブレーキといえば電動機を発電機として用いる発電ブレーキや電力回生ブレーキをいう。発電ブレーキは,回転動力源として用いている電動機を,減速させたいときに発電機として働かせ,その回転を止める方向に働くトルクをブレーキに利用するものである。電動機につないだ負荷抵抗の大きさを加減することによりブレーキの効き方を調節でき,エレベーター,ディーゼル電気機関車,トロリーバスなどに使われているが,一般に,高速時でないと効かないので,停止用には別のブレーキを必要とする。電力回生ブレーキ(回生ブレーキともいう)は,発電ブレーキとほぼ同様の原理であるが,発電ブレーキが発生した電力を抵抗器で熱として消費するのに対し,電力を送電所に返してやるところが異なる。電車や電気機関車などで摩擦ブレーキとともに使われている。
液体中で羽根を回す形式の車両用ブレーキや,航空機の機体からスポイラーを出して減速するダイブブレーキなどがあるが,摩擦ブレーキや電気ブレーキに比べて用途は限定されている。パラシュートも流体ブレーキの一種である。
→自動車 →鉄道車両
執筆者:中島 尚正
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…四輪のガソリン自動車は86年にダイムラーによってつくられた。エンジンは460cc,1.1馬力,650rpmで,最高速度は15km/h,車体は馬車そのもので背が高く,ステアリングは十文字の棒をまわすと前輪が車軸ごと首を振り,ブレーキは小さな丸ハンドルをまわすと木片が車輪に押しつけられる構造になっている。その後,エンジンの出力をあげるために排気量の増大がはかられ,1900年代の初めころには排気量6000ccのエンジンも現れるようになった。…
…そこで1930年代にアメリカで機首に首振式の前輪をつけ,主輪は重心よりやや後方の左右に置く前輪式着陸装置が使われ始めた。これは滑走中の方向安定がよいほか,ブレーキを強くかけても前へつんのめらず高速での着陸に適するので,第2次大戦後は前輪式が主流になった。このほかに主輪を自転車のように前後に並べ,左右に補助輪をつけた飛行機も少数ある。…
…建築限界は車両限界との間に一定の離隔をもって決められ,その寸法は鉄道の種類によって異なる。
[ブレーキと連結器]
鉄道車両を安全に運転し,所定の位置に停止させるためにブレーキ装置は重要であり,法規上も種々の規定が設けられている。ブレーキ装置は,機械式ブレーキと電気式ブレーキに大別され,前者には,制輪子を車輪踏面に押しつける制輪子ブレーキ,制輪子を車輪とは別の回転体に押しつけるディスクブレーキ,制輪子をレールに押しつけるレールブレーキなどの種類があり,後者の電気式ブレーキには,車両の運動エネルギーを利用して主電動機を発電機として使用し,得た電気エネルギーを抵抗器によって熱として消費する発電ブレーキ,同様にして得た電気エネルギーを電車線を通して返還する電力回生ブレーキなどの種類がある。…
※「ブレーキ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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