エレベーター(読み)えれべーたー(英語表記)elevator

翻訳|elevator

日本大百科全書(ニッポニカ) 「エレベーター」の意味・わかりやすい解説

エレベーター
えれべーたー
elevator

人間や荷物を乗せたかごケージ)をガイドレールに沿って上下の垂直方向に動かし、運搬する昇降機。また、書類や料理などを乗せて運搬する床面積1平方メートル以下で、高さ1.2メートル以下の小型のものは、ダムウェーターdumb waiterとよばれている。

[中山秀太郎]

歴史

エレベーターの歴史は古い。巻胴式エレベーターは紀元前200年ごろアルキメデスが考案したといわれている。日本でも荷物を上下垂直方向に運搬する装置はいろいろくふうされているが、なかでも有名なのは、江戸時代に徳川光圀(みつくに)が水戸の図書館で、図書運搬用につくった小さなエレベーターである。これらはいずれも人間が手で操作した手回し式であった。その後、水車動力としたり、また水圧式のものが考案されたり、あるいは蒸気機関を使って動かしたりするものも現れた。1880年ジーメンス‐ハルスケ社が初めて電動機を動力としたエレベーターを製作、ドイツのマンハイムで行われた博覧会に出品し、実際に運転してみせた。日本では、1890年(明治23)に東京・浅草の花屋敷に12階の凌雲閣(りょううんかく)が建設されたとき、電動式エレベーターが取り付けられ、1913年(大正2)には大阪の新世界の通天閣に国産第一号のエレベーターが取り付けられた。

[中山秀太郎]

構造

運搬物を乗せるケージと、つり合いおもり(バランスウェイト)をつるべ式に主ロープで連結し、巻上げ機の綱車に巻き付けて摩擦力により駆動する方式と、油圧ポンプによりプランジャーを上下させケージを昇降させる方式とがある。後者は高さ20メートルぐらいまでの比較的低い建物に使用されており、前者主力となっている。ケージの両側面はガイドレールによって支持され、動揺を防ぐようになっている。ロープ式の場合、ケージとバランスウェイトとはつり合っているので、わずかの力で昇降させることができる。

 ケージの積載量は400キログラムから5トンぐらいであり、巻上げ機を動かす電動機も、積載量と昇降速度に応じて、その容量は3.7キロワットから37キロワットぐらいである。一般に電動機の回転が速いので、毎分105メートル以下の昇降速度のときには歯車を使用して減速し、毎分120メートル以上のときには電動機の速度をそのままエレベーターの速さとして使用する。電動機は直流式と交流式とがある。直流式は起動、加速、減速、停止のショックが少なく、滑らかな乗り心地が得られるので、昇降速度が毎分120メートル以上のものはほとんど直流式が用いられている。昇降速度が毎分105メートル以下の交流式でも、乗り心地の向上、運転時間の短縮、着床精度の向上を図った速度および位置を検出してフィードバック制御を行う交流帰還制御方式が乗用エレベーターに用いられている。昇降速度毎分60メートル以下で荷物専用のものなどには、設備の簡単な交流二段式が利用されている。最近では制御にマイクロコンピュータが用いられるようになってきた。また、直流発電機のかわりにサイリスタ(半導体制御整流素子)を用いて、交流を直流にし、エネルギー消費と騒音を少なくしたサイリスタレオナード方式も採用されている。

[中山秀太郎]

運転方法

エレベーターの運転方法は、運転者付きと自動式とに分けられる。百貨店のように種々雑多な人が頻繁に乗り降りする所では、安全性のうえからも当然運転者付きとなっている。多数の事務所の集まっている高層建築、あるいはホテルなどのエレベーターは、押しボタンによって動かす自動式が使用されている。乗客が乗り場にある押しボタンを押すと、エレベーターはその階に動いてきて止まり、タイマー作用により自動的にドアが開閉する。ケージ内の運転盤上の目的階のボタンを押すと、その階まで動いていって停止し、ドアが開くようになっている。

 エレベーターは、エスカレーターのように連続的に運搬する方式ではなく、ケージは乗客のいる階を頻繁に昇降を繰り返すので、輸送能力はエスカレーターの10分の1程度である。しかし昇降の速度が速く目的階まで直接行けるので、百貨店、事務所などで広く使われている。3~8台のエレベーター群を、乗り場やケージの情報により合理的に群管理運転を行い、最適のケージを指示し、乗り場のランタンを表示させるシステム運転方法も用いられている。

[中山秀太郎]

安全装置

エレベーターは人間を運搬する場合が多いので、いろいろな安全装置が施されている。万一ケージをつっているロープが切断しても、ただちに固定装置が働いてケージは落下しないようになっている。また最上階、最下階では、それよりも上または下に運転されないようにできている。万一ケージが下降しすぎた場合には、昇降路の底に油圧式あるいはばね式の緩衝器があり、衝撃を防ぐようになっている。大地震などの衝撃を受けた場合、最寄りの階に緊急停止する装置も備えられている。また運転中、停電あるいはなんらかの原因でエレベーターが途中で停止したときには、運転操作盤付近にある専用連絡装置で連絡し、救出を待てばよい。

[中山秀太郎]


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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