ヘリシティ(読み)へりしてぃ(その他表記)helicity

翻訳|helicity

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヘリシティ」の意味・わかりやすい解説

ヘリシティ
へりしてぃ
helicity

粒子の運動方向のスピン成分の値。粒子の固有角運動量スピンを表すには、通常、空間に固定した一つの方向をとり、その方向のスピン成分でスピン状態を記述する。別の記述の方法として、粒子の運動量の方向のスピン成分の値でスピン状態を表すことができる。この値をヘリシティとよんでいる。ヘリシティは、座標系回転のもとで不変であるので、粒子間相互作用によるスピン状態の変化を考察するうえで有用な表示である。質量をもつスピンsの粒子では、ヘリシティは最高値sから最低値マイナスsまでの(2s+1)個の値がある。質量がゼロの粒子のヘリシティは相対論的な変換で不変である。光子はスピン1であるが、質量をもたないので、ヘリシティは正と負の1のみとなり、右旋光と左旋光に対応する。スピンの大きさが1/2の粒子では、ヘリシティは正と負の二つになるが、粒子の運動の向きに進むねじの回り方をスピンに対応させると、右巻きなら正、左巻きなら負となる。質量の上限が非常に小さく、質量をゼロとみてよいニュートリノは負の(したがって反ニュートリノは正の)ヘリシティ状態しかもたない。すなわち、自然には左巻きのニュートリノしか存在しない。このことは、弱い相互作用パリティが保存されていない、つまり対称性最大限の破れを意味している。

[玉垣良三・植松恒夫]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ヘリシティ」の意味・わかりやすい解説

ヘリシティ
helicity

素粒子のもつねじれ。素粒子のスピンの運動方向への成分で定義される。スピン 1/2の粒子の場合には運動量を P,スピンを s とするとき,ヘリシティは 2(sP)/|P|で定義され,その固有値は±1である。静止質量が 0の素粒子では,ヘリシティはローレンツ変換で不変な量であり,粒子固有の性質と考えられる。静止質量が 0でない粒子に対してはヘリシティは不変な量ではない。ニュートリノ微少な質量をもっている可能性が大きいが,現時点では左巻き(ヘリシティ-1)のニュートリノ,右巻き(ヘリシティ+1)の反ニュートリノしか発見されていなかった。しかし,近年ではニュートリノが質量をもつことが確かとなり,ニュートリノのヘリシティのこの特徴は近似的なものと考えられている。

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