ベルの不等式(読み)ベルノフトウシキ

デジタル大辞泉 「ベルの不等式」の意味・読み・例文・類語

ベル‐の‐ふとうしき【ベルの不等式】

量子力学において、量子もつれが存在する場合に不成立となる不等式。1960年代に英国の物理学者ジョン=ベルが導出。その後、アラン=アスペをはじめ、一か所で同時に発生した二つの光子偏光の向きや電子スピンを離れた場所で観測する巧妙な実験を行い、この不等式が成り立たないことを確かめた。これにより自然界には空間的な隔たりに依存しない非局所性といわれる性質が存在することが明らかになった。
[補説]のちの量子情報科学の基礎となるベルの不等式の破れを立証した業績により、アラン=アスペ、ジョン=クラウザー、アントン=ツァイリンガーは、2022年のノーベル物理学賞を受賞した。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

知恵蔵 「ベルの不等式」の解説

ベルの不等式

量子世界ならではのもつれ合いがあるかどうかを見極められる不等式。1960年代半ばに英国の理論物理学者J.ベルが示した。EPR対と呼ばれる2つのもつれた粒子では、観測によって片方の状態が定まった瞬間、もう一方の状態も決まる。たとえ話でいえば、片方が「赤」とわかったとたん、もう一方は「白」になり、片方が「白」とわかればもう一方は「赤」になるという具合だ。この相関は日常の常識を超えるほど強く、量子もつれといわれる。それぞれの粒子が、遺伝子のように「赤」や「白」の素因を隠しもっていて、それが観測の瞬間に現れる、ということでは説明できない。量子の世界にこの強い相関があることは、フランスの実験物理学者A.アスペらの実験などではっきりと確かめられている。その判定にも、この不等式が使われた。

(尾関章 朝日新聞記者 / 2008年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

今日のキーワード

カスハラ

カスタマー(顧客)とハラスメント(嫌がらせ)を組み合わせた造語「カスタマーハラスメント」の略称。顧客や取引先が過剰な要求をしたり、商品やサービスに不当な言いがかりを付けたりする悪質な行為を指す。従業...

カスハラの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android