ポスティングシステム(読み)ぽすてぃんぐしすてむ(英語表記)posting system

デジタル大辞泉 「ポスティングシステム」の意味・読み・例文・類語

ポスティング‐システム(posting system)

《「入札制度」の意》日本の球団に所属するプロ野球選手が、米国メジャーリーグへ移籍するための制度の一。所属球団の許可を得た選手のみが対象となる。所属球団は2000万ドルを上限に譲渡金を設定し、獲得を望む米球団がその金額を受け入れると、米球団は選手との交渉権を獲得する。契約が成立すると、米球団は所属球団に譲渡金を支払う。ポスティング制度

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共同通信ニュース用語解説 「ポスティングシステム」の解説

ポスティングシステム

日本プロ野球から海外フリーエージェント権を取得する前に米大リーグに移籍する制度。日本球団への譲渡金は選手が契約で保証される額により変動する。マイナー契約での譲渡金は契約金の25%。メジャー契約の場合、保証額のうち2500万ドルまでの部分の20%、2500万ドルを超えて5千万ドルまでの部分の17・5%、5千万ドルを超えた額の15%の合計となる。契約期間内に獲得した出来高払いの額からは15%が追加で支払われる。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ポスティングシステム」の意味・わかりやすい解説

ポスティングシステム
ぽすてぃんぐしすてむ
posting system

野球選手が、日本のプロ野球(日本野球機構、NPB)球団からアメリカの大リーグ(MLB)球団に移籍する制度の一つ。日本語では「入札制度」ともよばれるが、「ポスティング」とはMLBの全球団に対して、当該選手を獲得可能であるとMLBコミッショナーが告示することである。この制度によって、国外のいずれの球団とも選手契約を締結できる「海外フリーエージェント(FA)権」がない選手でも、所属球団がMLB球団への移籍を容認すれば、制度に基づいた手続をとることによって移籍できる。1998年(平成10)にNPBとMLBの間で協定が結ばれてから2012年(平成24)までは最高入札額を提示したMLB球団が当該選手を獲得できる仕組みだった。入札金額が高騰したことなどにより旧制度は2012年末に一度失効し、修正協議を経た2013年末以降は、当該選手を保有するNPB球団が設定した譲渡額に基づいて交渉が行われる仕組みに変更された。さらに2018年末以降は譲渡額が選手の契約金総額と連動する仕組みになり、現在に至っている。

 日米間の選手移籍については、1967年(昭和42)に調印された日米選手協定によって確立された「身分がフリーなら選手に直接接触できる。保留選手なら球団間の協議とする」という身分照会システムを基本とし、その後アマチュア選手についても「両国内ルール(プロアマ協定、新人ドラフト制)を相互に尊重する」といった内容が日米両コミッショナー間で合意に達していた。

 しかし、1995年にFA権をもたない野茂英雄(のもひでお)(近鉄バファローズ。現、オリックス・バファローズ)が、球団との移籍交渉が決裂した結果、任意引退の形をとってMLBのロサンゼルス・ドジャースと契約した問題を契機として、協定の見直し協議が行われた。この時点では「両国内ルールを尊重することを再確認する」「アマチュア選手にも身分照会の手続をとる」ことで合意したが、1997年に同じくFA権をもたない伊良部秀輝(いらぶひでき)(1969―2011)の移籍問題(所属球団の千葉ロッテマリーンズが、業務提携を結んでいるサンディエゴ・パドレスに独占交渉権を与えたことから、伊良部本人とMLBの他球団が反発し、最終的に三角トレードの形で伊良部がニューヨーク・ヤンキースに入団した問題)が発生したため、同年4月にMLB最高経営会議が「日本プロ野球側と新協定をつくるまで、日本球団の保留選手の獲得は凍結する」と通達し、同年6月にはMLB側から新協定としてポスティングシステムの提案がなされた。そして1998年に「日米間選手契約に関する協定」が締結され、最初のポスティングシステムが始まった。

 この制度を利用して初めてMLB球団と契約したのはアレファンドロ・ケサダAlejandro Quesada(1978― 、広島東洋カープ)で、1999年にシンシナティ・レッズに移籍したが、ケサダは2Aまでしか昇格できず、MLBではプレーしなかった。この制度で移籍して初めてMLBでプレーしたのは、ポスティングシステム利用2例目のイチローオリックス・ブルーウェーブ。現、オリックス・バファローズ)で、2000年オフにシアトル・マリナーズと契約し、2001年から主力選手として活躍した。

 当初の制度は金額非公開での自由入札方式で、最高入札額を提示したMLB球団に独占交渉権が与えられる仕組みであった。しかし、評価の高い選手の場合には入札金額が非常に高騰したこともあって2012年にMLB側から修正の提案があり、協議が進まないうちに同年末をもって協定は失効した。2012年までに旧制度で移籍した選手はケサダ、イチローを含めて13人であった。

 その後、紆余曲折(うよきょくせつ)を経たものの2013年末に新協定が成立し、当該選手の所属するNPB球団が上限を2000万ドルとする譲渡金を定めてMLB球団に告知する方式になった。これに応札するすべてのMLB球団と当該選手が交渉可能になったことと、譲渡金に上限が設けられたことによって入札額の高騰が抑えられるようになったことが大きな変更点である。一方、NPB球団としては旧制度でみられたような大きな見返りは期待できなくなった。この新制度は2018年まで続き、4人の選手がMLB球団に移籍した。

 2018年オフには、譲渡金の設定が当該選手の契約内容の総額によって変動する仕組みに変更され、総額2500万ドルまでは20%、2500万ドルから5000万ドルまでは17.5%、5000万ドルを超えた部分には15%を乗じて算出することになった。これにより譲渡金が従来の上限である2000万ドルに達する可能性はほとんどなくなった。現在の制度でMLB球団に移籍したのは、2024年(令和6)1月時点で10人である。

 同じ移籍制度であるFA制度との決定的な違いは、所属球団が当該選手の希望を認めないとポスティングシステムを利用できない点にある。そのため、日本プロ野球選手会は「選手の意志に基づく移籍が実現できない」として、さらなる見直しの要求を続けている。

[粟村哲志 2024年1月18日]

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知恵蔵 「ポスティングシステム」の解説

ポスティングシステム

日本野球機構(NPB)が統括するプロ野球チームに所属する選手が、アメリカのメジャーリーグ(MLB)球団へ移籍を希望する際に使うことのできる制度。選手の保有権を持つNPB球団が、当該選手との保有権をMLB球団に譲渡する形をとる。申請は当該選手個人ではなく、所属する球団がNPBを通してMLB側に行う。このため移籍希望選手は、日本の所属球団から承諾を得た場合にのみ、この制度の対象となることができる。
1998年にNPBとMLBによって調印された「日米間選手契約に関する協定」によって導入され、当初はMLB球団が移籍の独占交渉権を入札で獲得する形であった。落札したMLB球団と当該選手の交渉が成立した場合、入札金は所属するNPB球団へと支払われた。この形式によって、A.ケサダ、イチロー、石井一久、R.ラミーレス、大塚晶文(晶則)、中村紀洋、森慎二、松坂大輔、岩村明憲、井川慶、西岡剛、ダルビッシュ有、青木宣親の13人がMLB球団へと移籍している。
しかしこの形では最高額で入札した球団のみに30日間の独占交渉権が与えられ、当該選手は他のMLB球団と交渉することができなかった。さらに交渉不成立の場合には、次のオフまで申請を希望することができないなど、日本プロ野球選手会は移籍希望選手に不利な制度であると問題視していた。
またこの制度では入札金額が青天井だったこともあり、2011年オフにポスティング申請をしてMLB球団のテキサス・レンジャーズへ移籍したダルビッシュ有の落札額が、過去最高となる約5170万ドル(当時39億8千万円)へと高騰するなど、MLB側もこのままの制度では問題があると疑問視する。そして12年にMLBは「日米間選手契約に関する協定」を破棄するに至り、この制度は効力を失った。
その後、交渉を経て、13年に新たな制度が合意される。これまでの入札という形式はとらず、移籍希望選手の保有権をMLB球団へ譲る際に生じる譲渡金を最高2000万ドルとし、その範囲内で所属するNPB球団が譲渡金を設定。その金額に応じるすべてのMLB球団と交渉することになった。
これによりMLB球団は選手が所属するNPB球団へ支払う額が2000万ドル以下に抑えられ、当該選手は譲渡金に応じる用意のあるすべてのMLB球団と交渉することができるようになった。その一方で所属するNPB球団は、この制度によって得られる金額が2000万ドルを超えることはなくなった。この形式で田中将大、前田健太、大谷翔平、牧田和久の4人がMLB球団へと移籍している。
2018年オフにはさらに制度が変更された。移籍希望選手の保有権をMLB球団へ譲る際に生じる譲渡金を、それまでの最高2000万ドルから、当該選手の契約内容の総額によって変動する仕組みへと改定された。
この譲渡金は、契約金、年俸、バイアウト(契約解除)額の総額のうち2500万ドルまで20%、2500万ドルから5000万ドルまで17.5%、5000万ドルを超えた部分に15%を掛けた額を足して算出する。さらに出来高払いがあれば、年度ごとに当該選手が獲得した出来高に15%を掛けた額が追加譲渡金として支払われる。菊池雄星はこの形式で、シアトル・マリナーズへと移籍した。
なお、以前の譲渡金最高額は2000万ドルだったが、現制度で2000万ドルに達するには、選手の契約総額が1億2000万ドルもの高額を超える必要がある。ちなみに菊池雄星の譲渡金は1027万5000ドルだったと報道された。
19年オフには筒香嘉智と山口俊が、この制度を使ってMLB球団への移籍を決めた。筒香はタンパベイ・レイズと2年総額1200万ドル(約13億1100万円)で契約を交わし、NPBの所属球団だったDeNAには、譲渡金として240万ドル(約2億6200万円)が支払われる。山口俊はトロント・ブルージェイズと、2年総額635万ドル(約6億9850万円)で契約。さらに投球回数が170イニングに達すれば、140万ドル(約1億5400万円)の出来高払いが付くと報道された。山口の所属球団だった巨人には、譲渡金として127万ドル(約1億4000万円)が支払われる。なお、巨人からポスティングシステムを使ってMLBへ移籍したのは、山口が初めてのケースである。

(場野守泰 ライター/2020年)

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