改訂新版 世界大百科事典 「ポポルブフ」の意味・わかりやすい解説
ポポル・ブフ
Popol Vuh
〈共同体の書〉という意味で,グアテマラ高地のマヤ諸族の起源神話,歴史伝承をキチェー語で書いた叙事詩。キチェー王族の末裔が1554-58年ごろに口承などをもとに作成したと推定されるが,原本は不明。ドミニコ会士フランシスコ・ヒメネスがチチカステナンゴで18世紀初頭にラテン文字に転写し,スペイン語訳をつけた手稿本が残っている。ポポル・ブフは天地万物の創造神話に始まり,キチェー一族の4始祖創造から,7世紀にさかのぼると推定される〈七つの洞穴〉〈トゥラン〉という伝説上の地からの子孫たちの移動や征服活動などが,人身供犠など宗教儀礼や信仰と結びついた文化英雄の神話的伝承と絡みあって展開する。ユカタン半島の《チラム・バラムの書》と並び古典期マヤ以来の宇宙観を知りうる資料であり,《カクチケル年代記》とともに後古典期にグアテマラ高地に移住してきたマヤ諸族の民族史や社会構成を解明する重要な原地語史料であり,邦訳もある。
執筆者:小林 致広
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報