イタリアで生まれた多声歌曲の一形式。英語ではマドリガルmadrigal。14世紀にイタリアで栄えたものと、16、17世紀にイタリアとイギリスで展開されたものとの2種類がある。
14世紀にイタリアで栄えたマドリガーレは、牧歌的叙情詩に作曲された二声または三声の楽曲で、原則として、三行の詩句が二ないし三節繰り返され、最後に二行のリトルネッロで結ばれる形をとっている。フィレンツェをはじめとする北イタリアで栄え、ヤコポ・ダ・ボローニャ、ランディーニなど、多くの作曲家によって書かれた。
一方、1520年代に、14世紀のものとは根本的に性格の異なるマドリガーレが、フィレンツェを中心に生まれた。これは、洗練された文学的な詩に作曲された通作形式による楽曲で、初期のころはホモフォニー書法による四声曲が多かったが、16世紀中葉以後になるとポリフォニー書法による五声曲が多くなり、歌詞と音楽との結び付きが強くなった。初めはベルドロ、アルカデルト、ウィラールトなどのフランドル人作曲家を中心に展開されたが、やがてイタリア人作曲家が台頭し、マレンツィオ、ジェズアルド、モンテベルディなどの優れた作曲家たちの手で、16世紀末に至るまで大きな繁栄をみせた。しかし、17世紀に入ると器楽伴奏付き独唱歌曲の形に変質してゆき、やがて室内カンタータなどに道を譲っていった。
16世紀のマドリガーレはこの世紀の後半にイギリスにもたらされ、この地でしだいにイギリス独自の英語によるマドリガルが生み出されて、17世紀初めに至るまで、バード、モーリー、ギボンズなど、多数の作曲家によって展開された。
[今谷和徳]
…しかし,13世紀の北イタリアの教会で,同時代のフランスのものに比べると,かなり古い様式ではあるが,多声音楽の用いられた形跡がある。ダンテのあとを受けたペトラルカやボッカッチョの時代の14世紀に,初めは北イタリアのベローナやミラノの宮廷で,やがてはフィレンツェを中心に,マドリガーレ,バラータ,カッチャなどの形式による世俗歌曲が,多くは2~3声で,盛んに作られた。マドリガーレはイタリア独自の形式,バラータは,おそらく13世紀のラウダに現れたものから発展し,同時代のフランスのビルレーの影響を色濃く受けたもの,カッチャは,西ヨーロッパにかなり広がっていたカノンの技法を発展させたものである(《夏のカノン》)。…
…中世後期からルネサンスにかけては,歌曲は対位法的な作曲手法の進歩に伴って,1本の旋律線にすべてを託した単声歌曲からポリフォニックな多声歌曲の域へと進み,とりわけ16世紀には,それぞれの国民性を反映して多彩な花を開いた。フランスのシャンソンには粋で洒脱な趣があり,イタリアのマドリガーレ(マドリガル)は文学上のマニエリスムと手を取りあって牧歌的題材の中に様式的洗練を示す。ドイツの多声リートは,野の花のような素朴さの中にロマンティックな憧れを秘め,イザークの4声の歌曲《インスブルックよ,さようなら》などの佳曲を生んだ。…
…16~17世紀にかけてイタリアとイギリスで流行したポリフォニーによる世俗歌曲の一種。語源はイタリアのマドリガーレmadrigaleで,元来詩の一形式で,そのような詩によるポリフォニックな歌曲は,すでに14世紀イタリアの作曲家によって手がけられていた。ペトラルカの詩にヤコポ・ダ・ボローニャJacopo da Bolognaが作曲した《Non al suo amante》などはそのよい例で,音楽的形式としては前半に反復をもつA A B型をとるのをその特徴としている。…
※「マドリガーレ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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