日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヤマブシタケ」の意味・わかりやすい解説
ヤマブシタケ
やまぶしたけ / 山伏茸
[学] Hericium erinaceum (Fr.) Pers.
担子菌類、サルノコシカケ目ハリタケ科の食用キノコ。中国では猴頭(こうとう)菌(サルの頭をしたキノコ)とよび、珍重する。学名はハリネズミを意味し、日本名にもハリセンボン、ウサギタケの別名があるように、木の幹にへばりついた純白色のハリネズミともいうべきキノコである。形は球形ないし卵球形、径5~20センチメートル。垂れ下がる無数の針で覆われる。針は長さ1~5センチメートル、径1ミリメートル。キノコを縦断すると、上半部は多孔質の肉塊で、下半部は針の集団である。針の表面には子実層が発達する。胞子は7マイクロメートル×5.5マイクロメートル内外の類球形で、アミロイド。ナラ、カシ、ブナ、カエデ類の枯れ木または立ち木の幹に生える。分布は北半球温帯以北。
ヤマブシタケの名は、山伏が着衣の胸に垂らす白い飾り玉を連想してつけたものだと川村清一(1881―1946)は記している。また、古くは各地でカノタマ(鹿の珠。シカのふぐり〈睾丸(こうがん)〉)とよんだり、鹿児島県、高知県などではジョウコナバ(上戸なば。「なば」とはキノコの意)とよんでいた。ジョウコナバは、いまではジョウコタケ(上戸茸)というが、これは乾燥したヤマブシタケがスポンジのように水分を吸うこととかかわっている。つまり、酒宴に列席した下戸(げこ)がこれを襟元に忍ばせ、勧められた酒を飲むふりをしてキノコに吸わせてごまかしたわけである。
[今関六也]