ブナ(読み)ぶな

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ブナ」の意味・わかりやすい解説

ブナ
ぶな / 橅

[学] Fagus crenata Bl.

ブナ科(APG分類:ブナ科)ブナ属の落葉高木。高さ20メートル以上、直径1メートルにも達する。樹皮は灰白色で平滑であるが、地衣類がつきやすくさまざまな斑紋(はんもん)をつくる。葉は左右不対称の卵形から菱(ひし)形で、縁(へり)は波状の鋸歯(きょし)がある。側脈は7~11対で、先端は上部へ流れる。花は新葉よりすこし早く開く。雌花は新枝の上部の葉腋(ようえき)につき、緑色の総包内に、赤紫色の柱頭をもつ2個の花をつける。雄花は新枝の下部につき、細い柄をもつ頭状花序を下垂し、黄色の葯(やく)が割れ大量の花粉を放出する。風媒花で、雌性先熟である。一雌花内には三つの子房と六つの胚珠(はいしゅ)があるが、一胚珠だけが成長して殻斗(かくと)内に二堅果を結ぶ。秋、黄葉に先だって成熟する。堅果は褐色で三稜(りょう)のある卵形なので、ソバの実にたとえてソバグリともいう。隔年結果の性質が強く、豊作は6~7年に1回程度と少ない。堅果はシギゾウムシの食害や粃(しいな)が多く、落下後の乾燥にもきわめて弱いことから、天然更新上の一つの障害になっている。ほかのブナ科の種は、発芽のときに地下に種子が残る地下子葉型であるが、ブナだけは双葉が地上に出る特性をもつ。北海道渡島(おしま)半島の尻別(しりべつ)川流域を北限とし、鹿児島県高隈(たかくま)山まで分布する。温帯林肥沃(ひよく)な土地の優占種となり、いわゆるブナ帯を形成する。とくに多雪な日本海型気候下では他種との競争に強く、近年の伐採を免れた美林が残存する。材は人工乾燥と防腐の技術により、最近では家具材やフロアリングのベニヤ板などとして重要となっている。

 ブナ属には、日本産のイヌブナのほか、ヨーロッパブナ、アメリカブナ、タイワンブナなど10種以上知られている。かつてヨーロッパ文明をはぐくみ、「森の母」と尊ばれたブナの広大な自然林も、今日では牧畜農耕や植林のため、その大半が失われてしまった。

[萩原信介 2020年1月21日]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ブナ」の意味・わかりやすい解説

ブナ
Fagus crenata; beech

山毛欅とも書く。ブナ科の落葉高木。ブナノキ,ソバグリなどともいう。日本特産の樹木の1つで,本州中部の山地では標高 1000~1500m付近のいわゆるブナ帯の落葉広葉樹林を構成し,温帯林を代表する樹木の1つである。樹高 20~30m,胸高直径 1.7mに達するものもあり上部ではよく分枝して大きな樹冠をつくる。樹皮は灰色で平滑。葉は長さ6~10cmの広卵形ないし楕円形で光沢があり,縁は波状になる傾向がある。側脈は7~11対で,上面は初め毛があるがのちに無毛となり下面の脈上だけに毛が残る。雌雄同株。春に,新枝の葉腋に尾状花序をなして多数の雄花がつき,雌花は葉腋に通常2個ずつつく。果実は3稜形の堅果。材はパルプ材,家具材などに利用される。

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