日本大百科全書(ニッポニカ) 「ラズウェル」の意味・わかりやすい解説
ラズウェル
らずうぇる
Bill Laswell
(1955― )
アメリカのミュージシャン、プロデューサー。イリノイ州生まれ。1980年代初頭は攻撃的なサウンドで名を馳(は)せたが、それ以降はイギリスのピーター・ゲイブリエルPeter Gabriel(1950― )、キップ・ハンラハン、ジョン・ゾーンらと同様、ジャンルにとらわれない音楽をつくり続ける。ラズウェル自身はプログレッシブ・ロック、フリー・ジャズ、フリー・ミュージック、ファンク、パンクなどさまざまなジャンルの音楽を演奏する。
1979年、プログレッシブ・ロック/ジャズ・ロック系のレーベル、ニューヨーク・ゴングでのアルバムが初録音。マテリアル、フレッド・フリスFred Frith(1949― )、ハンラハンらと活動をともにした後、ゴールデン・パロミノスを結成する。その後1986年からはソニー・シャーロックSony Sharrock(1940―1994、ギター)、ペーター・ブロッツマンPeter Brötzmann(1941―2023、サックス)らとラスト・エグジットというグループで活動する。プロデューサーとしてはジャズ・サックス奏者ファラオ・サンダースPharoah Sanders(1940―2022)とモロッコのグナワ(ゲンブリという弦楽器、鉄製のカスタネットを用いる音楽)を共演させたり、ブラジルのバイアの音楽やアフリカのマヌ・ディバンゴManu Dibango(1933―2020)、レゲエのイエローマンYellowman(1956― )など、世界各地のミュージシャンとともに作品を精力的に制作する。
また、自己レーベル、アクシエムを運営するかたわら、ファッション・ブランドA. P. C.(アーペーセー) のアパレル・デザイナー、ジャン・トゥイトゥJean Touitou(1951― )が主宰するレーベル、アー・ペー・セー・セクション・ミュージカルで、マグレブのユダヤ系ミュージシャン、リリ・ボニチェLili Boniche(1921―2008)、ロックの先駆者ボ・ディドリーBo Diddley(1928―2008)、キューバ音楽などのアルバムのプロデュースも行い、「ブルー・ムービー・テーマ」などを含む自身のアルバム『アー・ペー・セー トラックスVol. 1』APC Tracks, Vol. 1(1996)も同レーベルから発表した。トゥイトゥはフランス植民地時代にチュニジアで生まれ、パリの大学で1968年の五月革命をシチュアショニスムの中心的思想家ギー・ドゥボールらの影響も受けながら過ごしたという。ラズウェルも、アメリカのアナーキストの哲学者ハキム・ベイHakim Bey(ピーター・ランボーン・ウィルソンPeter Lamborn Wilson、1945―2022)のCDを制作するなど、音楽家にはとどまらない文化的活動も行う。
[東 琢磨]
『John CorbettExtended Play; Sounding off from John Cage to Dr. Funkenstein(1994, Duke University Press, Durham)』▽『David ToopExotica(1999, Serpent's Tail, London)』