一帯一路(読み)いったいいちろ(英語表記)One Belt, One Road

知恵蔵miniの解説

一帯一路

中華人民共和国(中国)が形成を目指す経済・外交圏構想のこと。略称「OBOR」。2013年に習近平国家主席が提唱し、14年11月に中国で開催された「アジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議」にて広く各国にアピールされた。中国西部-中央アジア-欧州を結ぶ「シルクロード経済帯」(一帯)と、中国沿岸部-東南アジア-インド-アフリカ-中東-欧州と連なる「21世紀海上シルクロード」(一路)からなる。新たな経済圏の確立や関係各国間の相互理解の増進などを目的としており、15年10月14日~16日に北京で開催されたアジア政党国際会議(ICAPP)では「シルクロードの再構築と共同発展の促進」がテーマとなった。

(2015-10-21)

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知恵蔵の解説

一帯一路

中国の習近平(シー・チンピン)国家主席が提唱・推進している経済圏構想。略称はOBOR(One Belt, One Road)。中国を起点として、アジア~中東~アフリカ東岸~ヨーロッパを、陸路の「一帯」(シルクロード経済ベルト)と海路の「一路」(21世紀海上シルクロード)で結び、ゆるやかな経済協力関係を構築するという国家的戦略である。経済政策、インフラ、投資・貿易、金融、人的交流の5分野で、交易の拡大や経済の活性化を図ることが狙い。このうち高速道路、鉄道、港湾などの交通インフラ関連は、中国・パキスタン経済回廊(CPEC)を始め、各地で大規模プロジェクトが着工している。経済圏に含まれる国は約60カ国、その総人口は約45億人で、世界の約6割に相当する。
習主席が構想を公の場で表明したのは、2013年のこと。翌14年のアジア太平洋経済協力会議(APEC)で、構想実現に向けた「シルクロード基金」の創設を発表したことから、にわかに注目を集めるようになった。17年5月には、北京で第1回の「一帯一路フォーラム」を開催。習主席は29カ国の首脳と130余りの国の代表団の前で、「基金」への約1兆6千億円の追加拠出や融資枠の拡大などを約束した。これは中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)や中国国家開発銀行などとの連携を念頭に置いたものである。加えて、中国の地政学的な影響力の拡大を不安視する声を意識して、習主席は「ウィンウィンの関係が基本であること」「他国の内政に干渉しないこと」「他国に体制モデルを押しつけないこと」なども強調した。
しかし、国際社会には覇権主義を強める中国への警戒心が強く、主要国の首脳で参加したのはロシアのプーチン大統領とイタリアのジェンティローニ首相のみで、インドは代表団の派遣も見合わせた。また、イギリス、フランス、ドイツなどは貿易推進関連の提案文書への署名を拒否したと伝えられる。次回「一帯一路フォーラム」の開催は、19年を予定。

(大迫秀樹 フリー編集者/2017年)

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朝日新聞掲載「キーワード」の解説

一帯一路

中国の習近平国家主席が2013年に打ち出した海と陸から中国と欧州とを結ぶ「シルクロード経済圏構想」。東南アジアや南アジア、中東、欧州など60カ国以上の国・地域で道路や鉄道、港湾、通信網などの投資とインフラ整備を進め、経済成長を促す。半面、中国の影響力や権益を拡大する動きもみられる。中国商務省によると、140超の国や地域が一連のプロジェクトに賛意を示しているという。

(2017-11-25 朝日新聞 朝刊 1経済)

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デジタル大辞泉の解説

いったい‐いちろ【一帯一路】

中国の習近平(シーチンピン)国家主席が提唱した経済圏構想。中国西部と中央アジア・欧州を結ぶ「シルクロード経済帯」(一帯)と、中国沿岸部と東南アジア・インド・アラビア半島・アフリカ東を結ぶ「21世紀海上シルクロード」(一路)の2つの地域でインフラ整備および経済・貿易関係を促進するというもの。OBOR(One Belt, One Road)。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

一帯一路
いったいいちろ

中国国家主席の習近平(しゅうきんぺい)が提唱し、中国主導で進められている、アジア、ヨーロッパ、アフリカ大陸にまたがる経済圏構想。「一帯」にあたる「シルクロード経済ベルト」と、「一路」にあたる「21世紀海上シルクロード」からなる。
 「一帯一路」構想(「一帯一路」イニシアティブともいう)について、中国は、「開放型の世界経済システムを守り、多様で、自主的で、均衡のとれた、持続可能な発展を実現するための中国の提案であると同時に、地域協力を深化させ、文明の交流・相互参考を強化し、世界の平和・安定を守るという中国の主張であり、最大の開発途上国であると同時に世界第二の経済大国として、国際的経済ガバナンス・システムを公平、公正かつ合理的な方向へ発展させようという中国の責任感の表れでもある」と説明している。[関 志雄]

構想段階から実施段階へ

2013年、国家主席に就任してまだ間もなかった習近平は、中国の周辺外交の軸として、また新しい対外開放戦略の一環として、「シルクロード経済ベルト」と「21世紀海上シルクロード」をあわせた「一帯一路」構想を打ち出した。
 まず2013年9月に、カザフスタンのナザルバエフ大学で演説した際、ユーラシア各国の経済連携をより緊密にし、相互協力をより深めて経済発展を促すために、新しい協力モデルとして、共同で「シルクロード経済ベルト」を建設する構想を初めて打ち出した。
 続いて同年10月に、インドネシアの国会で演説した際、中国とASEAN(アセアン)諸国との海上協力を強化し、中国政府が設立した中国・ASEAN海上協力基金を活用し、海洋協力のパートナーシップを発展させ、ともに「21世紀海上シルクロード」を建設しようと提案した。
 「一帯一路」構想の実現に向けて、2015年2月に「一帯一路」建設工作領導小組が発足したことに続き、同年3月28日には、国家発展改革委員会、外交部、商務部が「シルクロード経済ベルトと21世紀海上シルクロードの共同建設の推進に向けたビジョンとアクション」を発表した。また、2017年5月14日から15日にかけて、習近平が主宰する「『一帯一路』国際協力サミットフォーラム」が北京(ペキン)で開催され、29か国の元首・首脳が出席した。これをきっかけに、国際社会の「一帯一路」構想への関心が一気に高まった。それに先だち、「一帯一路」建設工作領導小組が、同構想の全体像を盛り込んだ「『一帯一路』共同建設:理念、実践と中国の貢献」(以下、「『一帯一路』共同建設」)と題する文章を発表した。
 「一帯一路」におけるインフラ整備を資金面から支援するため、シルクロード基金やアジアインフラ投資銀行(AIIB)、BRICS(ブリックス)の5か国が主体となる新開発銀行(NDB)などが、中国の主導で設立された。この一連の取り組みは、第二次世界大戦後、アメリカが西欧諸国を対象に実施したマーシャル・プランを思わせるものであり、一部のメディアでは「中国版マーシャル・プラン」とよばれている。[関 志雄]

対象地域

「『一帯一路』共同建設」のなかで、「一帯一路」の対象地域について、次のように示されている。
 まず、「シルクロード経済ベルト」には三つのルートがある。(1)中国西北、東北から中央アジア、ロシアを経てヨーロッパ、バルト海に至るもの、(2)中国西北から中央アジア、西アジアを経てペルシア湾、地中海に至るもの、(3)中国西南からインドシナ半島を経てインド洋に至るものである。また、「21世紀海上シルクロード」には二つのルートがある。(1)中国の沿海港から南シナ海を通り、マラッカ海峡を経てインド洋に至り、ヨーロッパへ延伸するもの、(2)中国の沿海港から南シナ海を通り、南太平洋へ延伸するものである。
 両者をあわせた五つのルートに基づき、「一帯一路」共同建設の協力の重点と地理的条件にあわせて、中国は「六廊六路多国多港」という協力の枠組みを示した。その内容は以下のとおりである。
 「六廊」とは、新ユーラシア・ランドブリッジ、中国・モンゴル・ロシア、中国・中央アジア・西アジア、中国・インドシナ半島、中国・パキスタン、バングラデシュ・中国・インド・ミャンマーの六大国際経済協力回廊をさす。
 「六路」とは、鉄道、道路、海運、航空、パイプライン、情報網をさし、インフラの相互接続が主要な内容である。
 「多国」とは、一群の先行協力諸国をさす。「一帯一路」沿線には数多くの国があり、中国は各国と平等に互恵協力を進めるとともに、実情にあわせてまずいくつかの国と協力し、デモンストレーション効果をねらい、「一帯一路」の理念に基づいた協力の成果を体現し、より多くの国の参加を促す。
 「多港」とは、海上輸送主要ルートの安全性・円滑さを保障する若干の協力港をさす。一群の重要港湾と結節点となる都市を「一帯一路」沿線諸国と共同で建設することによって、海上協力を一段と盛んにする。
 このように、「一帯一路」構想は中国主導で進められ、おもにユーラシアの途上国を対象としている。しかし、中国は、それに関心を寄せる国々と国際機関がそれぞれの方式で参加協力し、成果の恩恵をより広い地域、より多くの人々に及ぼさせることを歓迎する、と表明している。[関 志雄]

中国にとっての戦略的意義

「一帯一路」構想の中国にとっての戦略的意義について、外交部副部長の張業遂(ちょうぎょうすい)(1953― )は、次のように述べている。
 まず、さらなる改革開放のために必要である。近年、中国が経済発展において大きな成果を収め、国内総生産(GDP)が世界第2位、貿易の規模が世界一になったとはいえ、多くの課題にも直面している。たとえば、東部と中西部の格差問題である。中西部が飛躍的な発展を遂げるには、東部からの生産能力の移転を加速させ、中西部地域と隣国間の交流と協力を強化しなければならない。これまでの中国経済の成長は、東部沿海地域における率先した対外開放の恩恵を受けたものであり、海外からの直接投資と先進国市場に頼っていた。しかし、現在、中国は対外開放と海外進出を同様に重要視するようになり、先進国だけでなく、開発途上国との経済協力の強化も目ざすようになった。「一帯一路」構想はまさにその一環である。
 また、アジアにおける地域協力のために必要である。アジアは世界経済の牽引(けんいん)役であり、経済のグローバル化の担い手でもあるが、その一方で、多くの問題に直面している。たとえば、アジア地域の一体化は、ヨーロッパ、北米と比べると遅れている。とくに、アジア各地域間で発展の格差が大きく、連携が少なく、交通インフラがつながっていないことが地域協力の障害となっている。そのうえ、貿易・投資・エネルギーをめぐる国際環境が大きく変化しているなかで、アジア諸国は経済高度化の正念場を迎えようとしている。「一帯一路」構想は、南アジア、東南アジア、西アジア、そしてヨーロッパの一部の地域をつなぎ、アジア全体の発展を推進する。「一帯一路」構想は、インフラ建設と制度改革を促進するなど、地域内と関連国家のビジネス環境の向上に寄与する。
 そして、世界の平和と発展のために必要である。古代のユーラシア大陸は多くの戦争と苦難を経験してきたが、シルク・ロードは一貫して平和、協力、友好の象徴であった。シルク・ロード沿いの各国は商品、人員、技術、思想などの交流を通じて、経済・文化・社会の前進、異なる文明どうしの対話と融合を促進してきた。古代シルク・ロードでみられた平和、友好、開放、包容、ウィン・ウィンの精神は中国だけではなく、世界にとっても貴重な財産であり、無形文化遺産でもある。古代シルク・ロードの精神を継承しながら、新しい時代の特徴を取り入れる「一帯一路」構想は、世界の平和と発展に貢献できる、という。[関 志雄]

五つの分野におけるこれまでの成果

「一帯一路」構想は、(1)政策面の意思疎通、(2)インフラの連結、(3)貿易の円滑化、(4)資金の融通、(5)民心の意思疎通の五つの分野での協力を中心に進められている。習近平は、2017年5月に開催された「『一帯一路』国際協力サミットフォーラム」の基調講演(「手を取り合って、『一帯一路』を推進しよう」)において、それまでの成果について、次のように述べている。
(1)政策面の意思疎通 中国は関係諸国と政策協調を進めた。これには、ロシアの提起する「ユーラシア経済同盟(連合)」、ASEANの「相互接続基本計画」、カザフスタンの「光明の道」、トルコの「中間回廊」、モンゴルの「発展の道」、ベトナムの「二回廊一経済圏」、イギリスの「ノーザン・パワーハウス」、ポーランドの「琥珀(こはく)の道」などが含まれる。
(2)インフラの連結 関係諸国と共同でジャカルタ―バンドン高速鉄道、中国―ラオス鉄道、アディス・アベバ―ジブチ鉄道、ハンガリー―セルビア鉄道等のプロジェクトを加速し、パキスタンのグワダル港、ギリシアのピレウス港などの港湾を建設し、一群の相互接続プロジェクトを計画・実施した。また、中国パキスタン、中国・モンゴル・ロシア、新ユーラシア・ランドブリッジなどの経済回廊をリード役とし、陸海空ルートと情報ハイウェーを骨格とし、鉄道、港湾、パイプライン網などの大型施設を拠点にして、複合型のインフラ網が形成されつつある。
(3)貿易の円滑化 「一帯一路」参加国との貿易・投資の円滑化を強力に推進し、ビジネス環境を絶えず改善した。2014年から2016年にかけて、中国と「一帯一路」沿線国との貿易総額は3兆ドルを超えた。また、中国の「一帯一路」沿線国向け投資の累計は500億ドルを超えた。さらに、中国企業は、すでに20余りの国に56の経済貿易協力区を設けた。
(4)資金の融通 「一帯一路」建設参加国・機構とさまざまな形式の金融協力を進めた。AIIBはすでに「一帯一路」建設参加国の9案件に17億ドルの貸付を行った。シルクロード基金の投資額は40億ドルに達した。
(5)民心の意思疎通 「インテリジェント・シルクロード」、「健康シルクロード」などの構築を進め、科学、教育、文化、衛生、民間交流などの各分野で広く協力した、という。[関 志雄]

実現に向けての課題

「一帯一路」構想は、実現に向けて順調に進んでいるようにみえるが、まだ乗り越えなければならない課題が多く残っている。
 まず、AIIBとNDBを中心とする金融支援の仕組みが、期待されている効果を上げられるかどうかには疑問が残る。AIIBに関しては、圧倒的な力をもつ中国がその立場を利用し、もっぱら自国の利益を追求することがないかが懸念されている。一方、NDBに関して、政治・経済状況が大きく異なるBRICS5か国が協力しあうことはけっして容易ではない。
 また、域内外の大国の支持を得ることが困難である。中国は、アメリカ、ヨーロッパ連合(EU)、そして日本との間で、「一帯一路」における資源をめぐって利益の衝突が予想される。そのうえ、ロシアやインドは、それぞれ、中国の中央アジアや南アジアへの進出を警戒している。
 さらに、「一帯一路」の対象国は、発展段階や宗教、文化などの面で大きく異なっており、経済統合の求心力が弱い。各国が実施している高関税も、国境を越える貿易の妨げとなっている。
 そして、中国は、一部の対象国との間で領土や領海の問題を抱えている。とくに南シナ海と、中印の国境地域において、緊張が続いている。
 最後に、投資に伴うリスクが高い。一部の紛争地域を含め、対象国の多くは政治、経済、社会の面において安定していないうえ、道路や港湾などのハード面のみならず、法律や税制といったソフト面でのインフラがまだ整備されておらず、改善を待たなければならない。
 これらの問題を解決していくことは、対象国との間のウィン・ウィン関係を実現する鍵(かぎ)となる。[関 志雄]

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