アジアインフラ投資銀行(読み)あじあいんふらとうしぎんこう(英語表記)Asian Infrastructure Investment Bank

日本大百科全書(ニッポニカ) 「アジアインフラ投資銀行」の意味・わかりやすい解説

アジアインフラ投資銀行
あじあいんふらとうしぎんこう
Asian Infrastructure Investment Bank

中国主導で設立したアジアのインフラ整備を支援する国際金融機関。港、道路、鉄道、空港、発電・エネルギー設備など旺盛(おうせい)なアジアのインフラ需要のために資金供給する役割を担う。英語の頭文字をとってAIIBと略称する。2013年に中国国家主席の習近平(しゅうきんぺい)が提唱し、2015年12月に発足した(2016年1月開業)。創設メンバーは中国、インド、イギリス、フランス、ドイツなど57か国で、加盟国は2019年4月時点で97か国・地域。主要7か国(G7)のうち、日本とアメリカのみが加盟していない。本部北京(ペキン)。資本金は1000億ドル。出資比率は加盟国の経済力に基づくが、中国が約3割の最大出資国。初代総裁は中国財務次官を務めた金立群(きんりつぐん)(1949― )。職員は約100人。アジアインフラ投資銀行を創設することで、中国は約3兆ドルある外貨準備を活用し、アジアの親中派を増やし、非欧米・脱ドルの中国経済圏形成を目ざしているとみられる。ただ融資実績は専門人材や投融資ノウハウの不足もあって、2017年末時点で24件42億ドルにとどまる。

 アジアのインフラ整備を支援する国際金融機関には、1966年設立のアジア開発銀行ADB)があるが、最大出資国は日本とアメリカで、歴代総裁はすべて日本人が務めてきた。アジアインフラ投資銀行の設立は、中国人民銀行主導のシルクロード基金やBRICS(ブリックス)が設立した新開発銀行(BRICS銀行)と並び、第二次世界大戦後の世界経済を支えた欧米主導のIMF国際通貨基金)・世界銀行(国際復興開発銀行体制対抗・代替するねらいもある。現在のIMF・世界銀行体制では、勃興(ぼっこう)するアジアの資金需要をまかないきれないとの不満が途上国から出ており、途上国はアジアインフラ投資銀行の設立を歓迎し、IMF・世界銀行も表だっては反対していない。日本やアメリカは、(1)中国の国益に役だつプロジェクトばかりに融資しかねない、(2)融資基準や審査体制があいまいで、野放図(のほうず)な融資を招き、途上国の環境破壊につながる、などの点を懸念している。

[矢野 武 2019年6月18日]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「アジアインフラ投資銀行」の意味・わかりやすい解説

アジアインフラ投資銀行
アジアインフラとうしぎんこう
Asian Infrastructure Investment Bank; AIIB

アジア諸国などに鉄道などインフラストラクチャー建設資金を融資することを目的に設立された国際金融機関。中国の習近平国家主席が 2013年に設立を提唱し,2015年12月に発足した。資本金は 1000億ドル。最大出資国で約 26%の議決権をもつ中国が重要案件で拒否権を握る。本部は北京に置き,初代総裁には中国の財政次官だった金立群が就任した。2014年10月に設立を決めた際の参加国は 21ヵ国で,東南アジアが中心だったが,中国と経済的なつながりを強めることに重点をおくイギリス,ドイツ,フランスなどのヨーロッパ諸国が参加を決めたほか,ブラジルやロシア,南アフリカ共和国,大韓民国(韓国),オーストラリアなどを含め,創設には 57ヵ国が加わった。中国は国際金融で存在感を強めることをねらっており,アメリカ合衆国や日本は参加を見送った。中国が AIIBの設立に動いたのは,先進国主導の国際通貨基金 IMFや国際復興開発銀行(世界銀行),アジア開発銀行 ADBへの不満が背景にある。アメリカと日本は,東シナ海南シナ海で軍事的な影響力の拡大をはかる中国に対し警戒感を崩しておらず,AIIBの運営方法にも懸念を示し,世界銀行や ADBのように,環境への配慮など高い融資基準の採用,意思決定の透明化などが必要との姿勢で,理事会が融資案件の審査に責任をもてるかが問題とみていた。ただ,アジアの旺盛なインフラストラクチャー投資需要に既存の国際機関が対応できていないのも事実であり,AIIBと世界銀行は業務で協調する方向で合意した。

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