翻訳|pipeline
液状のものを運ぶために設けた管路施設。広い意味では,水その他を輸送する管路,石炭などの粉砕固形物を液体に混ぜて運ぶスラリー輸送用の管路,セメント・穀物などの粉粒体や塵芥(じんかい),汚泥,あるいはカプセルなどを空気圧,水圧などで輸送する特殊な管路施設なども含まれるが,一般には,原油,石油製品,天然ガスなどを大量に輸送するためのものをいう。
石油のパイプラインを例にとれば,その一般的構成は,輸送の起・終点を結んでその中に石油を流すために敷設された,圧力に耐える鋼製の管路と,石油に圧力をかけて管路内に送り込むためのポンプ施設とからなり,必要に応じて,送出し・受入れ用のタンク設備,計量装置,制御装置,保安装置,原油輸送用の加熱・保温設備などが加えられる。鋼製管路は鋼管を現地で溶接して作り,温度変化や気象条件の影響を避けるために地中に埋設されることが多い。
とくに石油輸送では,長距離の幹線を利用して多数の事業所間で多種類の石油製品を輸送することが多く,本・支線やポンプ施設の配置も複雑になるので,おのおのの油種,品質,輸送量に応じて定められた輸送スケジュールに従って的確に運転を行う必要がある。揮発油,灯油,軽油といった異なる種類の石油を1本の管路で連続して送る場合,境界にスフェアと呼ぶプラスチック製ボールなどを入れることも行われるが,多少は混合した部分ができるので,それを最少にして処理する方策(品質上有害とならない油種のものに混入するなど)もスケジュールに加味しなければならない。また,管路中を流れる液体を急激に停止,発進させようとすると,慣性力と圧力波の伝播(でんぱ)の関係によって,部分的に大きな圧力の変動が生ずる(サージングという)ことがあるので,危険な圧力変動を避ける運転法と安全装置とが必要である。このように,パイプラインの運転は,スケジュール,品質,保安などに関して厳密な管理が要求されるので,全システムを高度に自動化された中央の管理室で集中的に制御する方式をとるものが多い。
パイプラインにおいて,ある期間に輸送できる量は,時間当り輸送能力Q,稼働率r,期間の長さTの積QrTで表される。稼働率rは需給関係,検査・点検整備などのために運転できない時間を控除する係数であり,輸送能力Qは管内の断面積Aと平均流速Vとの積である。断面積Aは管の口径Dの2乗に比例し,平均流速Vは管路両端の圧力差をpとすると,おおよそp=FLV2/D(Lは管路の長さ,Fは摩擦などによる圧力の損失を含む係数)の関係にある。したがって,パイプラインによって輸送できる量を大きくするには,連続的運転ができるようにして稼働率をあげるとともに,管の内径,運転圧力を大きくすればよいことになるが,とくに管の内径を大きくすることの効果がきわめて大きいといえる。
パイプラインによる輸送は,鉄道貨車,自動車などの移動する運搬具に積載して運ぶ方法と違って,地上,地中,水中などのどこにでも敷設できる管路の中を,圧力差によって輸送対象物自体が連続的に移動して運ばれるので,安定,大量の輸送に適しており,次のような特徴がある。(1)地形・起伏,土地利用などによる制約が少ないので,管路の敷設に最適な路線の選定が可能である。(2)施設の建設に大きな資金が必要であるが,その耐用年数は長く,運転に要する人員,エネルギーの経費はきわめて低廉である。(3)輸送能力は管径と圧力で決まり,大規模なものほど建設費は能力に比べて割安となる。ただし,いったん建設された施設の規模などの変更は容易でないので,需要の変動に対する適応性は低い。(4)十分に防護され外部と隔てられた管路中を運ばれるので,気象条件などによる障害が少なく,騒音,振動,汚染などの公害の発生がなく,過去の実績では事故の発生率が他の輸送手段に比べてきわめて小さい。このような特徴をみると,地形が複雑で人口密度が高く,安定した高度な生活,産業基盤が要請される日本においては,パイプラインはきわめて有効な輸送手段であり,今後ともその研究と建設が必要であろう。
水道を含む広い意味でのパイプラインの起源は古代にさかのぼるが,石油輸送を軸とした近代的なパイプラインの発達は過去100年あまりのことで,1862年ころからアメリカのペンシルベニア州の油田で鋳鉄管などを用いた初期的なパイプラインが作られたといわれている。その後,鋼鉄管が用いられるようになって急速に発達し,1900年代にはアメリカ南西部の油田地帯と東部の製油所を結ぶ長大な原油輸送用パイプラインが張りめぐらされている。また1900年ころからは石油製品用のパイプラインも作られはじめ,30年代の経済不況,第2次世界大戦を契機に,低廉,安全な輸送手段としてさらに発展をとげた。第2次大戦後には,ガスパイプラインが作られるようになり,既設のパイプラインの再編成や種々の大型プロジェクトが実現され,さらにアメリカ以外のヨーロッパ,中近東,南アメリカなどの世界各地に大規模なものが作られるようになった。50年代にベネズエラで水深30mの海底パイプラインが建設され,大陸棚油田の開発とともに海底敷設の技術も進歩し,各地に海底パイプラインが作られている。
日本でのパイプラインは,1955年ころから港湾,コンビナート,発電所を結ぶ小規模なものが作られはじめ,62年には新潟の天然ガスを東京に運ぶ本格的な東京パイプライン(延長304km,口径305mm)が完成し,臨海石油コンビナートには短距離大口径の海底パイプラインが作られている。72年には,石油需要の急速な伸びと逼迫(ひつぱく)した石油輸送の状況下で,外国との立遅れを解消し,安全で低廉な輸送手段としてパイプラインを計画的に整備するために,石油パイプライン事業法が制定されており,とくに輸送の安全性と公共性を確保するための厳重な規定が置かれている。
代表的なパイプラインをあげれば,日本には新東京国際空港航空燃料パイプラインがある。このパイプラインは石油パイプライン事業法の初めての適用を受けて83年に完成したもので,千葉港から成田の国際空港までの46.9kmの間に内径344.5mm,肉厚11.1mmの継目無し鋼管2条が敷設されている。千葉港で29.5kgf/cm2の圧力をかけており,平均流速約1.5m/sで,1時間に1条当り480klの航空燃料用タービン油を輸送する能力をもつ。また施設には高度の耐震設計が行われており,30ヵ所に緊急遮断弁が設置され,7種に及ぶ直接,間接の漏洩検知機構をはじめ,常時2台のコンピューターで監視・制御される各種の保安システムを備えている。寒冷地の大規模なパイプラインとしてアラスカ・パイプラインがあげられる。このパイプラインは,アラスカのプルドー・ベイ油田から南部のバルディーズ港に至る全長1284km,内径1200mmの大規模な原油輸送用パイプラインである。原油の流動性を増すために60℃に加熱・保温されているが,最低気温-60℃という極地の凍土地帯を通るので,管路からの放射熱によって凍土が融解したりして環境の破壊が生じないように,厚さ10cmのグラスファイバーの保温板で熱遮断を行い,凍土の支持力の変動にも耐えられる特殊工法を用いて地上に敷設されている。海底パイプラインとしてはアルジェリアからシチリア島を経てイタリア本土に至る地中海横断ガスパイプラインがあげられる。このパイプラインは,水深600mのシチリア海峡を横断しており,地上部では管径1200mm,肉厚13.7mmの鋼管を用いて75kgf/cm2の圧力で運転されるが,海底部では敷設時のたわみ性を増し,強い外圧に耐えるよう管径500mm,肉厚17.5~23.8mmの鋼管3条に分けて敷設されている。また,海底部の常用運転圧力は110kgf/cm2であるが,1条に障害が生じても輸送量が確保できるよう210kgf/cm2まで昇圧できる構造になっている。
執筆者:永井 靖郎
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パイプを通じて流体などを輸送するための施設。その種類を輸送対象物別にみると、天然ガス、都市ガスや炭酸ガスなどの化学ガスの気体輸送、石油、液化天然ガス、上下水、工業用水、カ性ソーダなどの液体輸送、スラリーslurry(粉体の懸濁液)、粉粒体やカプセルなどの固体輸送に分けられる。このうち大規模な輸送手段としては、石油と天然ガスのパイプラインがある。
大規模のパイプラインの特徴は大量の流体を連続的、効率的、経済的、かつ安全に遠距離に輸送できることである。パイプラインでは下水道のような自然流下式のものもまれにはあるが、一般には圧送方式が用いられるので、パイプはかなりの高圧を受ける。またパイプの大部分は地中に埋設され、土の圧力、車両からの圧力、不等沈下や地震などの影響を受けるので、その計画、設計、施工にあたっては慎重な配慮が必要である。
パイプラインの起源は紀元前3世紀のローマの水道までさかのぼるが、石油や天然ガスのパイプラインが発展したのはこの100年余の間であり、アメリカ合衆国で1862年に長さが300メートル程度の石油パイプラインを設置したのが最初という。1895年に鋼管が使用され、20世紀に入るとアメリカ合衆国南西部の新油田地域と東部の既存製油所や海岸ターミナルとを結ぶ大規模な原油パイプラインが発達した。天然ガスパイプラインは第二次世界大戦後に急速に発達した。日本では、新潟の天然ガスを東京へ輸送する東京パイプライン(延長330キロメートル、口径約30センチメートル、圧力50キログラム毎平方センチメートル、1962年完成)が本格的なものである。
[小林昭一]
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…1960年代後半,アメリカから始まった海上貨物輸送のコンテナー化は急速に世界に広がり,70年代には国際貨物航路はいずれもコンテナー化された。なお,海上の大型タンカーによる石油輸送に匹敵する陸上の輸送施設として,パイプラインがある。19世紀後半からアメリカで使われ始めたパイプラインは,油田,製油所,消費地の間を結んで石油や天然ガスを輸送する。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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