三矢研究(読み)みつやけんきゅう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「三矢研究」の意味・わかりやすい解説

三矢研究
みつやけんきゅう

正式には昭和38年度統合防衛図上研究といい、同年2月から6月末にわたって行われた自衛隊の大規模な図上演習。研究は、統合幕僚会議事務局長を統裁官として、当時新たに確定されたアメリカ新戦略のもとで、朝鮮半島武力紛争が生起した場合を例題に「自衛隊としてとるべき措置」「とらるべき国家施策の骨子」を検討するために実施された。制服からは「集めうる最高のスタッフ」が参加、当時の防衛庁内局、在日米軍司令部からも少人数が参加した。場所は主として市ヶ谷が使われたが、秘密保持は厳重を極め、参加者全員が腕章をつけ、他の者の立ち入りは禁止された。研究終了後二つの作業が行われた。一つは、実際の作戦計画づくりで、米軍と別途作業に入り作成された。「フライング・ドラゴン」「ブルーラン」というニックネームでよばれた日米共同作戦計画(秘密区分機密」)がそれである。もう一つは「今後における防衛及び警備の年度計画の整備並びに有事における諸施策の遂行に資することを目的」とした文書づくりで、研究中作成された資料は5分冊1419ページの文書(秘密区分「極秘」)にまとめられた。この一部が1965年(昭和40)に衆議院議員岡田春夫(1914―1991)らによって暴露され国民を驚かした。それはごく一部とはいえ、目下進行中の日米共同作戦をめぐる作戦・指揮情報・後方支援や、総動員有事立法などの諸問題を検討するうえで貴重な資料や手掛りを提供している。

[林 茂夫]

『林茂夫編『全文・三矢作戦研究』(1979・晩声社)』

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世界大百科事典(旧版)内の三矢研究の言及

【自衛隊】より

…しかし,1970年代に入ると,警察力の強化,とくに機動隊の増強により,自衛隊は〈国民に銃を向ける〉治安出動から手を引くことができるようになった。(8)自衛隊は,建軍のいきさつからして国民の十分な理解と協力を期待できなかったことから,みずからをガードマンにたとえた〈戸締り防衛論〉を宣伝していたが,新安保条約下では,国家の総力を挙げた戦争を想定し,〈三矢研究〉(1963年。そこでは非常事態措置諸法令の研究が行われており,情勢に応じて〈戒厳〉〈強制服役〉等,多くの法案の国会提出が検討されている)などで訓練を重ねるとともに,〈有事立法〉の研究,整備を行っている(防衛庁は1977年以来,有事法制の研究を進めている。…

【戦時法】より

… なお,戦前の戦時法は単なる過去の問題ではない。戦後の1963年に防衛庁が秘密裏に行った〈三矢研究〉(国家の総力戦を想定し,その際にとられるべき非常事態措置についての検討がなされた)や今日の政府による有事立法研究では,戦前の戦時法がモデルとされているのであって,その意味で戦時法はまさに今日的問題でもあるからである。【本間 重紀】。…

※「三矢研究」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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