改訂新版 世界大百科事典 「世界図絵」の意味・わかりやすい解説
世界図絵 (せかいずえ)
Orbis sensualium pictus
1658年に刊行された世界最初の絵入りの言語入門教科書。コメニウス著。感覚的具体的事物から出発して抽象的概念の理解へ進むこと,言語を事物認識と結合して教えることという方法原理に基づいて作られている。絵に描かれた事物に文字を対応する形で示すことによって,自然と文化に関する百科全書的知識をすべての人に近づきやすいものにしようとした。これは知識人階級における文字と大衆における絵という,コミュニケーション史上異なった系譜をなす二つの媒体を教育的に統合する試みとして画期的であり,今日の視覚教材の先駆となった。当初はギムナジウムのラテン語学習を容易にするためという実際的要請にこたえる役割を果たしたが,それを超えて,18,19世紀の教育における感覚的実学主義への道を開いた。コメニウスの存命中にヨーロッパ12ヵ国語のほか,アラビア語,ペルシア語にも翻訳されて広く普及した。日本で明治初年に刊行された初歩の国語教授のための教材である《単語図》は,本書にならったものである。
執筆者:宮沢 康人
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報