改訂新版 世界大百科事典 「乾燥肉」の意味・わかりやすい解説
乾燥肉 (かんそうにく)
保存と輸送,携帯の目的で脱水して水分を少なくさせた食肉。製法には天日乾燥,熱風乾燥,凍結乾燥がある。天日乾燥は原始的な方法で,北米インディアンのペミカンpemmican,南米のチャーキーcharqui,南アフリカのビルトングbiltongなどが,またチベットでは干し肉として僻地で生産されている。これらは牛肉,豚肉,羊肉を軽く塩漬にしたり,あるいは生のまま空気中で天日乾燥したものである。熱風乾燥肉は第2次大戦中に軍用の食糧として欧米で生産された。これは肉の薄片を加熱してから70℃以下の熱風で乾燥したものだが,品質があまり良くなく,その後一般には普及しなかった。凍結乾燥肉は第2次大戦後アメリカ,イギリスなどで研究開発された。これは肉を凍結し,真空下に置くことにより,氷の昇華を起こさせ,このとき昇華潜熱を外部から供給する方法でaccelerated freeze-drying(AFD)と呼ばれる。新鮮肉や調理済み肉にも適用できる。水分は3.5~10%とひじょうに少なく,タンパク質やビタミンの変性,損失がほとんどないので常温での保存性に優れ,肉質の変化も少なく,水和による復元性の良い製品ができる。しかし価格が高いので航空食,山岳食,軍用などの特殊用途以外はあまり用いられていない。ドライソーセージも乾燥脱水を行うので,広い意味では乾燥肉であるが,水分は約30%と多いので,普通は乾燥肉の範疇(はんちゆう)に入れない。
執筆者:森田 重広
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報