食用にするヒツジの肉のうち,生後1年未満のヒツジからの肉をラムlamb,生後20ヵ月以上の成熟したヒツジからの肉をマトンmuttonという。日本での羊肉の生産量は208t(1995)で,ほとんど全部輸入に頼っている。マトンは肉色素の含量が約0.25%で牛肉の約半分,豚肉の約4倍である。したがって豚肉より色が濃く,牛肉よりは色が淡い。肉質も豚肉よりは硬く,牛肉よりは柔らかく,両者の中間的な位置にある。独特な臭気があるので,正肉用としてはあまり用いられないが,安価であるのでプレスハム,ソーセージなどの肉製品の製造原料として,またハンバーグなどの冷凍食品の材料としてよく用いられる。ラムはマトンに比べて色が淡く肉質も柔らかで羊肉特有の臭気も少ないので,羊肉の中では高価であり,ステーキ用やジンギスカン料理用として用いられる。
ヒツジは旧大陸において最も早く家畜化されたものの一つであり,アジア,ヨーロッパの遊牧民にとって最もたいせつな食料である。また旧約聖書の中で,神より食べることを許された動物であり,過越(すぎこし)の祭というユダヤ教の聖日には犠牲として子ヒツジをほふって神に捧げる。中国では古代の殷時代にすでに食用にしており,豚肉と並んで重要な食用肉である。日本では平安時代の《延喜式》巻三十二,大膳式上の条に〈羊脯(ひつじのほじし)〉(脯は干した肉)の文字が見える。日本最初の殺生禁断の命令が出された675年(天武4)の詔勅には〈牛馬犬猿鶏の宍(しし)(肉のこと)を食うことなかれ〉とあり,この中にヒツジは入っていない。したがって日本には牛馬よりは比較的遅くに大陸から帰化人によってもたらされたものと考えられる。
化学的組成はマトンのうち脂肪の多いものは水分39~43%,タンパク質14%,脂肪41~45%,灰分0.8~1.0%で,脂肪の少ないものは水分50~67%,タンパク質16~20%,脂肪12~16%,灰分0.7~1.1%であり,ラムについては水分53~64%,タンパク質18~19%,脂肪16~28%,灰分1.0~1.1%である。料理としては,ロースト,付け焼,煮込みなどにすることが多いが,中国料理の烤羊肉(カオヤンロウ)や涮羊肉(シユワンヤンロウ)がよく知られている。前者は日本でジンギスカン料理と呼ばれるもの,後者はしゃぶしゃぶ風のなべ物である。
執筆者:森田 重広+鈴木 晋一
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…脂肪尾羊系種の粗い毛は下級羊毛としてじゅうたんの原料毛に利用される。羊肉は繊維が細くて柔らかく消化しやすいが,特有の臭気があるので日本での評価は低い。また脂肪の融解点が高く,硬いので冷食には向いていない。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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