改訂新版 世界大百科事典 「亜リン酸」の意味・わかりやすい解説
亜リン(燐)酸 (ありんさん)
phosphorous acid
化学式H3PO3。遊離酸としては水溶液中でもその存在は知られていない。エステルとして亜リン酸エステルP(OR)3などが知られている。古く亜リン酸と呼ばれていたものは実際にはホスホン酸phosphonic acid H2PHO3であることがわかっている。ホスホン酸は,三塩化リンを加水分解させて得られる。実験室では,四塩化炭素溶液とし,氷冷しながら徐々に水を滴下した後,脱塩酸して作る。無色,潮解性の氷状結晶。融点74℃,200℃で分解する。比重1.65。水に対する溶解度は307g/100ml(0℃),730g/100ml(40℃)。エチルアルコールにも溶ける。核磁気共鳴吸収スペクトルの研究から,水素原子のうち1個は次に示すように直接リン原子に結合していることがわかった。
水溶液に塩酸HClと亜鉛Znを加えると還元されてホスフィンPH3を発生する。
H2PHO3+3Zn+6HCl─→PH3+3ZnCl2+3H2O
還元性も強く,硝酸銀,塩化金(Ⅲ),硫酸銅などの溶液からそれぞれの金属を析出させる。酸としては二塩基酸であるが,有機塩基の存在でアルコールと反応しエステル(RO)3Pが得られる。このエステルはたやすく酸化されリン酸エステル(RO)3POとなる。ホスホン酸塩は一般に無色の結晶で,Na2PHO3・5H2O,NaPHO3・2.5H2O,K2PHO3などがある。
執筆者:漆山 秋雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報