フッ(弗)化物,塩化物,臭化物,ヨウ(沃)化物およびアスタチン化物の総称で,ハロゲン元素とそれよりも電気陰性度の小さい元素との化合物をさす。ハロゲン元素どうしの化合物はとくにハロゲン間化合物と呼ばれ,またハロゲン化物(ハロゲン間化合物を含む)とハロゲンとの付加物をポリハロゲン化物と呼ぶ。これらをすべて含めてハロゲン化物と呼ぶこともある。元素をハロゲンと直接反応させたり(たとえばH2とCl2),金属およびその酸化物,水酸化物,炭酸塩などをハロゲン化水素酸水溶液に溶解させたり(たとえば亜鉛を塩酸に溶解させたり,酸化銅(II)を臭化水素酸と反応させる),また金属塩の水溶液にハロゲン化水素酸またはアルカリハロゲン化物水溶液を加えて複分解により難溶性のハロゲン化物を沈殿させたり(たとえば硝酸銀水溶液にヨウ化水素酸やヨウ化ナトリウム水溶液を加えてヨウ化銀を沈殿させる)して得ることができる。水素のハロゲン化物はフッ化水素を除き比較的共有結合性の強い分子を形成する。金属イオンの半径が小さく,比較的電荷が大きい場合(金属イオンが硬いルイス酸の場合)には,金属イオンとハロゲン化物イオンとの結合はイオン性に富み,フッ化物イオンとの結合が最も強く,ヨウ化物イオンとの結合が最も弱い(たとえばハロゲン化ナトリウムの場合)。同じ金属イオンでも酸化数があまり大きくなると,低酸化数の場合よりいっそう硬いルイス酸になると考えられるにもかかわらず,一方,空の軌道が多くなり,ハロゲン原子からの電子受容体になりやすくなり,かえって共有結合を形成しやすくなる場合もある(たとえばUF4はイオン結合性だがUF6は共有結合性)。イオン性の化合物は融点,沸点が比較的高く,水または極性溶媒に溶けやすい性質をもつが(たとえばNaClやCaCl2),イオン結合性が著しく強固な場合にはイオンの水和エネルギーより結晶の格子エネルギーのほうが大きくなり,結晶はかえって水に難溶または不溶となる(たとえばLiFやCaF2)。イオンの半径が比較的大きく電荷が小さい場合(金属イオンのルイス酸としての軟らかさが増す)には,共有結合性が強くなり,むしろヨウ化物イオンと結合しやすくなる。この場合,原子間距離は金属イオンとヨウ化物イオンとの結合が最も長く,したがって静電的相互作用(イオン結合性)はヨウ化物の場合が最も小さいので,イオン間の全結合エネルギーはヨウ化物が最も大きいとは限らないが(たとえばAgCl,AgBr,AgIでは格子エネルギーでは3者はほとんど等しく,むしろAgIが最も格子エネルギーが小さい,すなわち最も結合が弱い),ヨウ化物イオンの水和エネルギーが最も小さいので,反応はヨウ化物イオンを含む錯体や沈殿の生成に好都合な方向に進行することが多い。共有結合性の化合物は比較的融点,沸点が低く,無極性の溶媒に溶けやすく,また加水分解されやすい(たとえばSiCl4)。
執筆者:大瀧 仁志
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
ハロゲンと他の元素との化合物で,周期表中のほとんどすべての元素はハロゲン化物をつくり,一般にもっとも重要で普通にみられる化合物である.元素を直接ハロゲン化するか,金属,金属の酸化物,水酸化物,炭酸塩をハロゲン化水素酸に溶かすと得られる.難溶性のハロゲン化物は金属塩水溶液にハロゲン化物水溶液またはハロゲン化水素酸を加えて沈殿させることにより得られる.金属のハロゲン化物は,一般にイオン性の物質であるが,金属イオンの電荷と半径比の値が増大するにつれて共有性が増大する(例:KClはイオン性であるがTiCl4は本質的に共有性である).同じ金属でも低酸化状態のハロゲン化物はイオン性をとる傾向があるのに対し,高酸化状態のものは共有性をとる傾向がある(例:UF4はイオン性であるがUF6は共有性である).イオン性のものは融点,沸点が高く,一般に水または有極性溶媒に溶ける.陰性の元素,すなわち非金属およびきわめて高酸化状態の金属イオンのハロゲン化物は共有性で,融点,沸点が低く,無極性溶媒に溶けやすく,また多くのものは容易に加水分解して,ハロゲン化水素酸とその元素のオキソ酸を生じる.
例:PCl3 + 3H2O → H3PO3 + 3HCl
ハロゲン化物に過剰のハロゲン化物イオンが配位するとハロゲン酸およびその塩を生じ(例:H2PtCl6,K2PtCl6),またハロゲンまたはハロゲン化ハロゲンが付加するとポリハロゲン化物(例:KI3,KIBr2)を生じる.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
ハロゲンと、それより電気陰性度の小さい元素との二元化合物AXの総称。Aが基(とくに有離基)の場合もある。塩化物、臭化物、フッ化物、ヨウ化物などがある。
[編集部]
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