兵庫県有馬(ありま)温泉の土産(みやげ)用郷土玩具(がんぐ)。名産有馬筆の竹軸に五色の絹糸を巻き、軸の中に鉛をつけた糸で小さな人形を吊(つ)るし、毛先を下にして筆を立てると人形が軸端から飛び出す仕掛けになっている。7世紀、孝徳(こうとく)天皇の妃小足媛(おたらしひめ)がこの名湯に浴して有間皇子(ありまのみこ)を懐妊したという伝承にちなみ、1559年(永禄2)ころ考案されたという。習字嫌いの若殿が筆の仕掛けに興じて、のち能書家となったという伝説、豊臣(とよとみ)秀吉が有馬温泉に遊び、この筆を激賞したという挿話もある。筆を玩具化した着想はほかに類がなく、硯(すずり)を人形にかたどった嵯峨(さが)の人形硯(京都)、奈良一刀彫人形の型を墨でつくった人形墨(奈良)と並んで、書道の三つ物玩具とよばれている。
[斎藤良輔]