代謝・栄養異常における新しい展開

内科学 第10版 の解説

代謝・栄養異常における新しい展開(代謝・栄養の異常)

 21世紀のはじめにはわれわれの体で働いている遺伝子がすべて解読されて,すぐにゲノム医療の時代が来るように思われていたが,代謝・栄養異常の医療現場はなかなかゲノム医療へとは進まない.これらの異常の成立に遺伝子が関与していることは疑いないが,SNP(スニップと発音)をはじめとする,遺伝子の配列異常の解析だけでは十分でないようだ.これは,遺伝子は決まったが,その発現調節の機構がよくわかっていないからではないかと思われる.これからは遺伝子の質だけでなくその発現が問題になる時代と思われる.
 肥満はわが国を含めた先進諸国において社会をゆるがす大きな問題である.脂質代謝異常で取り上げるが,肥満は脂質代謝だけの異常ではない.これと関連深いメタボリック症候群と名づけられた疾患では動脈硬化も進行するが,この機構も十分にはわかっていない.そもそも,栄養過多による異常に対しては現代の医学は弱い.栄養学は進んだが,われわれの口から入った「栄養」が,どのような代謝を受けて体全体でどのような効果を発揮するかは十分にはわかっていない.臓器の間の連関(情報のやりとり)はあるのだが,その機構も十分わかっていない.これもあって,ゲノムの異常を修正するのではなく,役割のわかっている1つの分子に着目してその情報伝達を変えて効果を発揮させる治療法が,代謝・栄養異常の治療の現場ではまだまだ主流である. 代謝・栄養異常の代表的疾患である糖尿病(1型)でも,インクレチン関連薬が最近登場した.消化管ホルモンであるインクレチンを増やして,血糖値を下げるホルモンであるインスリンの働きを増強しようとする狙いである.インクレチンは低血糖時には作用を発揮しないのでインクレチン関連薬を併用しても低血糖を起こさないだろうと考えられたのに,まれにSU薬との併用で重篤な低血糖が生じて大きな問題となっている.まだまだ作用機構の全容は明らかでないと考えたほうがよいだろう.糖尿病に対してはどれだけ炭水化物を摂食すればよいのかも,低炭水化物食ダイエットとの関係で大きな話題となっている.血糖値をよくして有用とか,寿命を縮めるのでよくないとか,さまざまな説があふれているが,まだまだ症例数や長期的な安全性や有効性の証拠に欠ける.いまのところは適量の炭水化物を摂るのがよいと考えておくのがよいだろう.[岡 芳知]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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