改訂新版 世界大百科事典 「伊達娘恋緋鹿子」の意味・わかりやすい解説
伊達娘恋緋鹿子 (だてむすめこいのひがのこ)
人形浄瑠璃。世話物。8巻。角書〈起請方便品書置寿量品〉。通称《櫓のお七》。菅専助,松田和吉,若竹笛躬作。1773年(安永2)4月大坂北堀江市の側芝居初演。お七吉三物の浄瑠璃としては,これより先に《八百屋お七》やその改作《潤色江戸紫》などが行われていたが,本作は後者をさらに書き替えたもの。お七が放火をするのではなく,火の見櫓の半鐘(のちの歌舞伎では太鼓)を打つという新しい趣向が成功した。今日もっぱら上演されるのは六の巻末尾の〈火の見櫓〉の段だが,お七が梯子を登るさまを人形遣いがその姿を見せずに操るという吉田難波掾に伝えられた技巧的な型が人気を呼び,華やかな景事の一幕となっている。なお,この場は,のちに歌舞伎の《其往昔恋江戸染(そのむかしこいのえどぞめ)》や《松竹梅雪曙(しようちくばいゆきのあけぼの)》にも採り入れられ,人形振りの演出を見せ場とする独立した所作事となっていった。
執筆者:原 道生
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報