改訂新版 世界大百科事典 「其往昔恋江戸染」の意味・わかりやすい解説
其往昔恋江戸染 (そのむかしこいのえどぞめ)
歌舞伎狂言。世話物。4幕。通称《八百屋お七》《天人お七》。福森久助作。1809年(文化6)3月江戸森田座で,お七を5世岩井半四郎,吉三郎を尾上栄三郎(のちの3世菊五郎),紅屋長兵衛を沢村四郎五郎,土左衛門伝吉を3世坂東三津五郎らが初演。鈍通与三兵衛(3世津打治兵衛)ほか作《八百屋お七恋江戸染》(1766年7月江戸中村座初演)ののち,これを初世桜田治助らが改訂した同じ大名題の作が1778年(安永7)5月中村座で上演され,それをさらに改訂した作品で,お七吉三物の集成作ともいえる。大当りをとり,以後繰り返し上演された。現行の《八百屋お七》はだいたいこの台本によっている。範頼公は天女に生き写しと評判の八百屋お七を妾にしようと,釜屋武兵衛を使って強引に言い寄るが,お七は寺小姓吉三郎と恋仲のため承引しない。お七は紅長(べにちよう)の機転や土左衛門伝吉,三尺染五郎らの力で危難を救われるが,吉三は剃髪を決意する。それを知ったお七は気も動顚し,吉三に会いたい一心で,閉ざされた木戸を開くため禁制を破り櫓太鼓を打つ。その罪で死罪と決まるが,鈴ヶ森で処刑の寸前に赦免される。現行演出の中心は,吉祥寺の場における紅長の滑稽なしぐさにある。紅長が,武兵衛らにお土砂(どしや)をかけてぐにゃぐにゃにしてしまう道化の演出が大いに喜ばれている。また,吉祥寺でお七が欄間の天女になり代わって身を隠すこと,櫓太鼓を打つことなどは,河竹黙阿弥の《三人吉三廓初買》にもたくみに利用され,生かされている。
執筆者:服部 幸雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報